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スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション

スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション
カーマイン・ガロ

はじめに

「イノベーションと起業家精神に対するあこがれを、天才だけでなく、何百万ものアメリカの子どもたちに取り戻してもらう必要がある」と、たくさんのスティーブ・ジョブズを生みだすべきだと提案した。条件のよい雇用(ジョブズ)を増やしたければ、イノベーションを進める気になる環境、イノベーションが成功する環境をつくる必要がある。

これからの10年間、企業も個人も、創造性とイノベーションを2本の柱としてゆく必要がある。できなければ進歩は止まる。進歩が不可欠な時代だというのに。
ある意味、救いなのは、不景気なときほどイノベーションが生まれやすいことだ。

ビジネスの世界は今、大きく変化しており、その状況に適応・繁栄するためには今までのようなトレーニングでは不十分で、新しいイノベーションのスキルも身につける必要がある。顧客価値を生みだす方法がわかれば、どのような仕事でも成功のチャンスは大きくなるし、職業人として最後まで役に立つことが可能になる。逆にわからなければ、過去の人として捨てられるおそれがある。

差別化に必要なのは、「自分が何をすれば、顧客は仕事が進めやすくなるだろうか」と自問することだとムンローは言う。「その答えがわかれば、それがイノベーションなのです」

発明とは、新しい製品やプロセスの設計・開発・構築を意味する。イノベーションは創造的なアイデアからスタートし、最終的に、発明やサービス、プロセス、手法などに至る。発明家になれる人は限られているが、イノベーターには誰でもなれる。店を訪れた人に何か買ってもらうアイデアを思いつけば、その人はイノベーターだ。

法則1 大好きなことをする

第1章 ジョブズならどうするだろうか?

ジョブズは、イノベーションを生みだす「仕組み」に頼ろうとしない。イノベーション力を鍛えるワークショップに社員を参加させたりしない。アップルキャンパスにレゴを用意したりもしないし、「イノベーションコンサルタント」を招いて社内を細かく点検し、無理矢理チーム構築を進めたりもしない。それどころか、そのようなやり方は陳腐だと切り捨てる。

クールじゃない人が必死にクールになろうとしているって感じだ。見ていて痛々しいよ・・・デルを創業したマイケル・デルが踊ろうとしているみたいで。見たくない姿だ。

スティーブ・ジョブズはもう30年以上もよい製品ーとてもよい製品ーをつくり続けている。スタルクと同じ理念を規範として、ジョブズは、コンピューターやMP3プレイヤー、スマートフォンなど、既存製品を使いやすくし、また、使って楽しいものにしてきたのだ。

MP3市場の70%以上を占め、人々が好みの音楽をみつけ、購入し、楽しむ方法を大きく変えた。他メーカーより高価格だというのに、コンピューター市場におけるシェアも10%まで上昇。

正しい指導を受ければスキルが向上することはまちがいないし、高校や大学でスター選手になれる可能性もある。厳しい練習に耐えれば、数百万ドルもの契約をNBAからとれる可能性だってないとは言えない。マイケル・ジョーダンほどゲームをコントロールできるようにはならないかもしれないが、ほとんどの高校生が夢に見ることさえなかったほどの成功をスポーツ選手として収められる可能性はあるのだ。

大きな変革が進む時代こそ、大きなものが手にできる。ジョブズやロックフェラーなどのイノベーターは、そのような混乱の時代を上手に生きたわけだ。

僕らが情熱を傾けたのはとってもシンプルなことさ。僕らと同じように楽しんでもらえるように、友だちにコンピューターを届けたかったんだ

「ジョブズならどうするだろうか?」と自問することは簡単だが、ビジネスや人生についてジョブズが指針としている7つの法則を理解していなければ、正しい答えを得ることは難しいだろう。

  • キャリア - 大好きなことをする スティーブ・ジョブズは心の声に従ってきたし、それがよかったのだと言う。
  • ビジョン - 宇宙に衝撃を与える アップルのロケットは情熱が燃料、ジョブズのビジョンが目的地なのだ。
  • 考え方 - 頭に活を入れる スティーブ・ジョブズにとって創造性とはさまざまな物事をつなぐことを意味する。
  • 顧客 - 製品を売るな。夢を売れ 顧客は夢や希望を持つ人々、その夢の実現を助ける製品をつくる。
  • デザイン - 1000ものことにノーと言う 不要なものを取り除き、必要なものの声が聞こえるようにすることである。
  • 体験 - めちゃくちゃすごい体験をつくる 世界最高の小売店としたシンプルなイノベーションは他の分野にも応用可能。
  • ストーリー - メッセージの名人になる 世界一のイノベーションを思いついても、まわりの人を巻き込めなければ意味がない。

「目標が高すぎて届かないことよりも、目標が低すぎて簡単に届いてしまうことのほうが、普通、害が大きい」・・・ミケランジェロが語ったとされている言葉だ。ミケランジェロもジョブズも他人に見えないものが見えた。ミケランジェロは大理石の塊にダビデを見た。スティーブ・ジョブズはコンピューターに人の可能性を解放するツールを見た。
あなたは、自分にどのような可能性があると見るだろうか。適切な洞察とインスピレーションがあれば、どれほどのことができるだろうか。スティーブ・ジョブズに相談できたら、どこまでキャリアを伸ばすことができるだろうか。ジョブズならどうするだろうか?そう、考えてみよう。

第2章 自分の心に従う

大事なのが、この宇宙にあるさまざまなモノを自分でつくれるんだと実感できることなんじゃないかな。身のまわりのモノが神秘じゃなくなるんだ。つまり、たとえばテレビを見たとき、「実際につくったことはないけど、その気になれば僕にもつくれる」と思うようになる。こんな感じで、僕はとても幸運な子ども時代を過ごしたんだ。

世界は発明家を必要としている・・・すごい発明家を。君だって、そのひとりになれるんだ。自分のしていることが大好きで、そのために必要なことならなんでもしようって気があれば、君にもできる。自分はどういうものを設計したいのか、つくりあげたいのか、夜、自分ひとりでじっと考え、考え、考え続ける。それだけのことをする価値はある。絶対にある。本当だ。ーースティーブ・ウォズニアック

「どんなものでも、僕はただで設計してあげた。自ら進んで無償でやってあげたんだ。設計が大好きだったから。大学でも、レポートをタイプしてほしいという人がいたら『僕がやってあげるよ』と言ってた。そう言って朝4時までタイプしたりするんだ。タイプも大好きだったからね。報酬は1セントも受け取らなかった。大好きなことができるのなら、お金なんて気にならないものだよ」

「お金のためにやっていたわけじゃないんだから。死ぬときいくらお金を持っているかなんてどうでもいいんだ。毎日、ああ、今日はすばらしいことをしたなぁと思いながらベッドにはいりたいーー僕にとってはそれが大事なんだ」

情熱を傾けられるものがまだみつかっていないなら、ジョブズのアドバイスに従い、探し続けるべきだ。ジョブズが語ったように、仕事というのは人生のかなりの部分を占めるものであり、そこで本当の満足を得るためには、すばらしい仕事だと信じることをするしか方法がない。まだみつけられていないなら、妥協しないこと。

第3章 キャリアをシンク・ディファレント

情熱とはあらがいがたいものだ。自らの人生に少しでも注意を払っているなら、自らが情熱を持つ物事を無視などできるはずがない。情熱とは自然と惹きつけられてしまう考えや望み、可能性であり、ただ、そうすることが当然だと思うがゆえに意識や時間を投入してしまうものである。ーービル・ストリックランド

これほど賞賛されることをストリックランドが成し遂げられたのは、イノベーターになろうとしたからではなく、自分の人生に目的を与える天職を追い求めたからだ。そうして組織を育て、実効あるソーシャル・イノベーションの理論を構築したのだ。

自分の心に従うこと、本当の運命だと感じるものと異なる道を妥協で選ばないこと。ストリックランドは言う。
「失敗を恐れれば、非凡な人生を送るという夢は終えます。自分の情熱を信じれば、その恐れを乗りこえることができます」

普通の人は最初の何回かであきらめてしまうが、ダイソンはがんばり続けた。むしろ、失敗を楽しんでいたと言えるだろう。エンジニアという人種はそういうものだからだーー改造する、試験する、新しいアイデアを試す人なのだ。そして、そこに刺激を感じる。刺激を感じられない場合は、別のものを手がける。刺激が感じられないようでは、画期的な成功などあり得ないからだ。

フーバーの役員がこう語ったーーあのときダイソンの発明を買とり、握りつぶして世の中に出ないようにすべきだった。そうれうば、フーバーの優位は揺るがなかったのに、と。このように、多くのリーダーにとってイノベーションというのは、つまり、多くの人々の暮らしをよくするアイデアというのは、会社のDNAに組み込まれてもいないし組み込みたいとも思わないものなのだ。

我々が欲しいのはアントプレナーであり、勝利の実績を持つ人でありやる気に満ちた貢献者です。どういう肩書きを持っていたかではなく、自分がどういう貢献をしてきたかで今までやってきたことを語る人です。

偉大な目的に向かって邁進するとき、非凡な計画を推進するとき、思考はあらゆる束縛から解きはなたれる。心は限界を超越し、意識はあらゆる方向に拡張し、偉大かつ最高の状態となる。眠っていた力や能力、才能が活性化し、今までの自分からは想像もつかないほどすばらしい人になれる。ーーパタンジャリ

起業は失敗や挫折に満ちている。しかし、心の声に従っていれば、「自分を見捨てることがない」というストリックランドの考えに従っていれば、失敗で終わることがない。そして、レイを見ればわかるように、思いもよらない成功が飛び込んできたりするのだ。

創造力とエネルギーがなければイノベーションは生まれない。「情熱がない人は元気がない。元気がない人は何も手に入れられない」ーードナルド・トランプ

仕事に情熱を燃やしているとき、その情熱は目の輝きに現れる。ボディーランゲージに、声の調子に現れる。そして職場が明るくなる。情熱はまわりの世界を大きく変え、その結果、まわりの人々の世界をも大きく変えてしまうひどの力を持つ。

イノベーションを成功させるためには、自らの情熱と資質ーー核となる能力を上手にマッチングする必要がある。自らの強みをみつけるには、正しい方向へそっと押してもらわなければならないこともある。生まれながらに持つ力を活用すべしとのアドバイスだ。

情熱だけではだめだが、情熱と資質がひとつになれば世界を変えられる。スティーブ・ジョブズは、コンピューターに対する情熱と、生まれながらに持つエレクトロニクスやデザイン、マーケティングの才能とを組み合わせた。その結果、海のものとも山のものともつかなかったパーソナルコンピューターを、あらゆる人が使うツールへと変えたのだ。

スティーブ・ジョブズも、自分の言葉がどれほどの影響を与えたか、はっきりとはわかっていないだろうと思う。彼の言葉により、男も女も、リーダーもマネージャーも、アントプレナーもその予備軍も、皆、最高のアイデアを生みだすのは自分の夢を追う人なのだと改めて認識した。
「時間は限られています。他人の人生を歩んで時間を無駄にしないでください」
と語ったジョブズは祝辞をこう締めくくった。
「ハングリーであれ。分別くさくなるな」

法則2 宇宙に衝撃を与える

第4章 エバンジェリストを奮いたたせる

「パーソナルコンピュターについてどういうビジョンを持っておられますか?」
その後のことを思いだすと、30年以上がたった今でも鳥肌が立つという。
「スティーブ・ジョブズというのはすごく魅力的な語り部です。彼は1時間にわたり、パーソナルコンピューターで世界がどう変わるのかを熱心に語りました。仕事の進め方や子どもの教育、エンターテイメントなど、すべてのものがパーソナルコンピューターの登場で変わると語ったのです。これはもう、乗る以外に選択肢はありませんよ」
こうしてアップルで働きはじめたのだとキャンベルは言う。

スティーブ・ジョブズはスマートフォンの発明者でもなければタブレットコンピューターの発明者でもない。しかし、iPhoneやiPadを発売して世界を大きく変えた。

ジョブズが何を思いつこうと、まわりの協力を得られなければイノベーションを実現することはできなかったはずだ。そして、ビジョンという刺激でやる気にならなければ、協力しようと思う人はいなかっただろう。

意欲的なビジョンでチームのメンバーからやる気を引きだし、エバンジェリストとしてプロジェクトに参加させる。エバンジェリストなら、世界を変えられるのも当然だろう。
ビジョンとミッションは別物だ。つくるモノを示すのがミッション、どのような形で世界をよくするのかを示すのがビジョンだ。イノベーションを生みだす仕組みなどアップルにはないとジョブズは言う。

「グラフィカルユーザーインターフェースの原型を見せてもらった。不完全だったしおかしなところもあったけど、でもたしかに新しい発想だった。10分もしないうちに、近い将来、コンピューターはこうなるはずだとわかったよ。骨の髄まで、ね。そこまで何年かかるかは意見がわかれるかもしれないし、業界における勝敗の行方も議論があるかもしれない。でも、そうならないと合理的に判断する人はいなかったはずだ」
アップルに戻ったジョブズは、新たな目標に向けて燃えていた。まず、プログラミングのチーム、全員にPARCを訪問させる。

ジョブズは、GUIこそ普通の人にコンピューターを届けるという自分のビジョンにかなうものだと感じたわけだ。

「ゼロックスはコピー機しか頭になく、コンピューターとはどういうものなのか、何ができるのかがわかっていなかった。だから、コンピューター業界最大の勝利を目前に大敗を喫したんだ。今、コンピューター業界の頂点に立っていてもおかしくなかったんだけどね」
ビジョンの裏付けがなかったため、目の前の技術がどれほどの価値を持つのか理解できなかったわけだ。情熱があってもビジョンがなければどうにもならない。両方がなければイノベーションは生まれないのだ。

「マックの起動時間がスティーブは気に入らなくて・・・同僚のデザイナー、ラリー・ケニヨンにこう言ったんです。『こおのマシンをいったい何人の人が買うかわかっているのか?何百人だぞ?起動時間を5秒短くできたらどうなる?毎日、5秒かける百万もの違いになる。50人分の人生に相当する時間だ。5秒の短縮で50人分の命が救えるようなものなんだ』と。こう言われたら効きますよ。そして、起動時間を短くすることに成功したんです」

イノベーションは、「意義を見いだそう」としたときに生まれる。意義を見いだす行為には、世界をよくしようという思いが内包されている。アップルをはじめとする偉大な会社は、意義を見いだすという崇高な目的を掲げて行動し、結果としてお金をもうけているというのだ。アップルが世界を変えられたのは、人々の創造性と生産性を高めることを目標に行動したからだ。

ジョブズの下で働くのは恐怖であると同時に病みつきになると言う。ジョブズが期待したレベルに達しないとつるし上げられる恐怖があるが、同時に、「うっとりする経験」でもあり、「唐の国をくれると言われてもマッキントッシュの部門で働きたいと思った」とまで言う。カワサキが指摘したビジョンーー「意義」は重要だ。個人では実現不可能なミッションにチームが一丸となって突きすすむとき、その力はすさまじいものとなる。

「我々の成功」に危機感を覚える人が社内にいるからだ。ブラスらのチームは、2001年ごろ、タブレットPCの開発を行なっていたが、オフィス担当のバイスプレジデントに嫌われてしまう。タブレットで動くようにオフィスを改良してもらえなかったのだ。その結果、タブレットのプロジェクトは失速し、解散となった。悲しい話である。何億ドルもの費用をかけたプロジェクトが社内抗争でつぶされたのだ。

イノベーションと研究開発費用の間に関係などない。アップルがマックを開発したころ、我々の100倍以上もの研究開発費用をIBMは使っていた。お金じゃないんだ。すべては人であり、どう導かれ、どこまで理解できるかなんだ。ーースティーブ・ジョブズ

ジョブズは、基調講演の終わりにこう語った。「大好きなアイスホッケー選手、ウェイン・グレツキーの言葉があるんだ。『パックがあった場所ではなく、パックが行く先へ滑るようにしている』、だ。アップルでは、みんながそうしようと心がけている。始まりの瞬間からそうだったし、今後もずっとだ」

第5章 ビジョンをシンク・ディファレント

伝道の極意は、あなたと一緒に歴史をつくりたいと情熱的に示すことだとカワサキは言う。キャッシュフローも利益もマーケティングも関係ない。売っているのはモノではなく夢なのだ。
「製品を売られた人はそれを使う。進むべき道を説かれた人はその色に染まり、旗を掲げて歩いてくれる。自分と同じことに熱中してくれる。そして、敵から自分を守ってくれる。彼らの目をのぞき込むと、自分たちのロゴが見えるのだ」
売るのではなく、道を説くーーそれがマッキントッシュ流だ。そして、道を説くためにはビジョンがなければならない。

スティーブは耳を貸さなかった。意外なことに怒りもしなかった。ソフトウェアチームがいかにすぐれているか、アップルのみんながいかに期待しているかを話した。そして、反対意見が出る前に電話を切ってしまう。クパチーノ側のメンバーは、ぼう然と顔を見合わせた。みんなぶっ倒れる寸前だったが、またもスティーブにしてやられてしまった。なんとかするしかない。事に臨んで立てと発破をかけられたのだ。みんな、スティーブのめがねにかなった連中だった。失望させられるはずがなかった」

アップルにはエバンジェリストが何千人もいる。彼らは「それはできません」とは言わず、「どうしたらいいか、今はよくわかりませんが、なんとかします」と言う。会社ができた当時からずっと、スティーブ・ジョブズはそういう文化をはぐくんできた。「崇高な目的が献身的な努力と粘り強さを生み、イノベーションを推進する。そして、優れた才能から並外れた成果が生まれる」

多くの会社では、こんなことがよく起きる。とってもクールな車をモーターショーで見たのに、その4年後、発売された車はなんともお粗末。どうしたんだよって思うよね。できてたのに、たしかにできてたのに、勝利目前でどうしてだめになるんだよって。デザイナーはすごいアイデアを出したんだ。でもそれをエンジニアに見せると、「いや〜、それは無理だ。不可能だよ」と言われる。ここで大幅に悪くなる。次に製造部門に持ってゆくと、また、「そんなものはつくれない」と言われる。こうして、また、大幅に悪くなる。ーースティーブ・ジョブズ

外宇宙の探査はしていないかもしれないが、地上にいる誰かの暮らしをちょっとだけ改善しようとしているのではないだろうか。それは崇高な目標だと言える。

トップが店舗数を拡大したいと思っただけで、社員が一生懸命働いたりすばらしいサービスをお客に提供したり、はたまた、画期的なアイデアを出してくれたりするはずもない。

「何とかしようとみんなで知恵を絞った結果、相乗効果で大きな結果を出すことができました。予想したよりもずっと短い期間で成果が上がり、ほかの地域からモデルと見られるようになりました。コミュニティーの中心となるためには、学校はやり方を大きく変える必要があります。何をどういう形で提供するのか、どういう手をさしのべるのか、新しいビジョンが必要なのです」
どのようなレベルでも、変化をもたらすビジョンの力はあなどれない。子どものためとがんばる8人の母親の力もそうだ。

ミッションステートメントなど捨ててしまおう。時間の無駄だ。その代わり、ビジョンを用意しよう。そのほうが、みんな、やる気になる。
ビジョンとは、提供する製品やサービスで可能となるよりよい世界のイメージだ。魅力的なビジョンは投資家、社員、顧客に刺激を与えるだけでなく、そのような関係者をエバンジェリストに変えてくれる。魅力的なビジョンには、共通する3つの特徴がある。具体的、完結、徹底的だ。

  • 具体的 - ハワード・シュルツが投資家に語ったスターバックス立ちあげのコンセプトは違う。「職場でもなく家庭でもない第3の場所」ーー具体的だ。はっきりとイメージできる。
  • 完結 - 「1クリックで世界の情報へアクセス可能にする」この文は、元の英語で10ワードしかない。
  • 徹底的 - ビジョンが知られなければ説得力が生まれるはずもない。

「普通の人々にコンピューターを届ける」
「10年以内に人を月面に立たせ、安全に地球まで連れ戻す」
「子どもたちに優れた公立小学校を与えなければならない」
「究極のアイスクリーム体験として世界にその名をとどろかせる」

「平凡な会社にならないためには、優秀な人々を少人数ずつチームとし、それぞれに夢を追わせるのがいい。我々はアーティストであってエンジニアじゃないんだ」とスティーブ・ジョブズも語っている。

やる気になるビジョンがなければ、まわりから絶対に無理だと言われたとき、前に進むことは難しい。シュワルツェネッガーも皆からありえないと言われた。

すばらしいアイデアのみの力でブランドを差別化することはむずかしくなってきた。イノベーションの専門家で経営学教授のロベルト・ベルガンティも、これからの10年はアイデアの勝負ではなく、アイデアが力を発揮し行動へとつながる舞台を用意できるか否かの勝負になると見ている。

斬新なアイデアを生みだすためには、いったん枠から出て考え、また枠組みに戻る必要があると言われてきたが、ビジョンは枠組み自体を壊して別な枠をつくってしまう。もちろん、アイデアに大きな価値があることを否定しているわけではない。イノベーションの最初にはアイデアがあるし、膨大なアイデアの比較検討は今も重要だ。特に、少しずつ改良するような場合には有効だ。右か左かという話ではない。競争力の源泉となる希少価値の高い資産ーービジョンへシフトが生じている

法則3 頭に活を入れる

第6章 新しい体験を探しだす

炊飯器は昔から磁石でコードを取りつける構造を採用しているが、その目的は、ひっくり返さないためだ。コンピューターなら床に落ちても買い換えればすむ。中身が沸騰している状態で炊飯器が床に落ちたら、しかも、子どもがコードを引っぱって落としたら・・・修正などできない悲劇となる可能性もある。このMagSafeがマックブックに導入された2006年、これはいい、これはすごいという意見が多数、ウェブの掲示板に書かれた。日本製の炊飯器やウォルマートの揚げ鍋など、「昔からある」アイデアだとばかにする意見もあった。
アイデア自体、新しいものではない。ただ、他者が気づかなかったつながりをアップルはみつけ、イノベーションを生みだしたのだ。

他人と違う見方をするためには、過去に経験のないことをたくさん、頭に詰め込むのが一番いい。目新しい体験をすると認知プロセスが過去のくびきから解放され、頭は新しい判断をするしかなくなる

ゼロックスPARCでグラフィカルユーザーインターフェースを見た人は何十人もいたが、他の人々と異なる認知をしたのはジョブズだった。ジョブズは創造性の大波、天啓を得た。

脳というのは究極のグリーン技術だ。生命を維持するため、省エネルギーを常に推進している。人は「習慣の生き物」だと言われるが、これは本当だ。我々の脳は、反復抑制と心理学で呼ばれるモードで動いている。要するに、同じ視覚刺激を繰り返し受けると神経の反応が抑制されるのだ。

ビジョンがなければイノベーションは始まらないことをすでに確認したが、創造的なビジョンが生まれるためには創造的な思考が必要であり、創造的な思考が生まれるためには斬新な体験や普通の問題に対する斬新な見方が必要なのだ。

第7章 考え方をシンク・ディファレント

ルネサンスがどのように興ったのか、また、なぜフィレンツェから始まったのかについてはさまざまな議論がある。運命の巡り合わせだったという人もいる。偉大な思想家が何人も、たまたま同時期に生まれ、たまたまみんながトスカーナにいたというのだ。

初心とは、物事を拒絶しない、どん欲に学ぶ、先入観を持たないということだ。初心とは、小さな子どものように人生と向きあうこと、好奇心と疑問、驚きに満ちていることだと禅宗では教える。そうして、「なぜ・・・?」「仮に・・・?」という問いを自由に発することができれば、現状にも疑問を投げかけやすい。あらゆる可能性を排除しないということだからだ。

ファンをなくすためには、コンピューターの発熱を抑える必要があった。アップル初期の歴史について書かれた本は、いずれも、ウォズニアックは電源に興味を示さなかったし、実際、当時の若手エンジニアに興味を示す人はいなかったと指摘している。電源などいじってもおもしろくないというわけだ。しかしジョブズは違う「見方」をした。知的実験から生まれたジョブズのビジョンが現状に疑問を投げかけたのだ。そしてロッド・ホルトというエンジニアに依頼して、コンピューター用の画期的な電源を完成する。その結果、アップルIIは小型化すると同時に、ファンレスにもなった。

法則4 製品を売るな。夢を売れ。

第8章 その異常こそ天賦の才の表れ

多くの人が死に体だと思った会社をジョブズは大きな意義を持つ会社だと見た。顧客を知り、顧客の暮らしにおけるアップルの役割を知っていたからだ。実行力には何の問題もない、ただ、まちがったことを実行しており、250万人もいるコアユーザーのニーズに応えられていないだけだと。

彼らに、スティーブ・ジョブズのような理念はなかった。バブルボーイズが夢中になって大物の振りをしていたころ、ジョブズは、現実の顧客が現実の目的を実現できるようにと現実の製品をつくっていた。バブルボーイズの世界とは異なり、アップルは「訪問者数」として顧客を見なかった。老若男女、プロフェッショルかアマチュアか・・・いずれにせよ、よりよい暮らしを夢見ている人々、それがアップルの顧客だった。世界を変える製品をアップルがつくれたのは、世界を変えるという夢を顧客がかなえる手助けをしてきたからだ。

僕らは、まず、自分が欲しいものは何なのかを把握する。そして、同じものを多くの人も欲しがるだろうか、きちんと考えることがアップルは得意なのだと僕は思う。僕らはそのプロなんだ。だから、次にブレークするのは何だと思う?って社外の人に尋ねたりしない。ヘンリー・フォードも同じことを言ったらしいよ。「何が欲しいかと顧客に尋ねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」ってね。

「普通の会社は、フォーカスグループの評価に合わせた製品を次々と打ちだし、豊富な選択肢を提供すればニーズを幅広くカバーして顧客を獲得できるはずだと考える。アップルは逆で、つくる製品を絞り込み、マーケティングで客を誘導する」

つくった製品が顧客の人気を得られるか否か、つくる前にわからないという問題にはどう対処すればいいのだろうか。アップルは、ごく簡単な方法をとっている。究極のフォーカスグループ、もっとも厳しい基準を持つグループの意見を聞けばいい。つまり、自分たちがどう思うか、である。
「僕らは、まず、自分が欲しいものは何なのかを把握する」

アップルも、毎日、顧客の声を聞いている。しかしアップルのイノベーションを支える秘密、大文字のI(私)によるイノベーションはユーザーの声を聞くことから生まれるのではなく、人々が抱える問題に対し、まったく新しい考え方の解決手段を提示するという形で行われる。アップルはフォーカスグループを使わないとジョブズは言うのだ。顧客の声を聞くなと言っているのではない。むしろ逆で、顧客にもっと近づけとジョブズは言っている。顧客がまだ気づいていないニーズを語れるほどに密着しろと。

2001年10月23日、「1000曲をポケットに」というキャッチフレーズでiPodを世界に紹介する。音楽ライブラリーのすべてをポケットに入れて持ち運べれば、音楽の楽しみ方が大きく変わると主張して。

「こういうことは気にしない人が多い。いい面しか見ないんだ。ともかく、こういうやり方が広がったのはなぜだろう。法的に問題がなく、お金を払う価値のあるやり方がなかったからだ」
そして、ジョブズはiTunesミュージックストアを紹介する。
「音楽ダウンロードのあるべき姿だ」

iPodが典型的なユーザー中心の設計であった(あなたの問題に対するソリューションを我々は持っている)のに対し、iTunesストアは根源的なイノベーション、ヴェルガンディが言う「ユーザーを追いかけてもまず得られない」イノベーションだった。ユーザーを追いかけるのではなく、アップルは顧客に提案を行ったのだ。少しのお金を音楽に払ってくれるなら、高速で簡単、まちがいのないダウンロードに豊富なコンテンツ、そして、いい気分を提供するよ、と。

アップルの顧客がiPadを求めることはなかったが、いったん手にするとそれなしでは生きられないというほど気に入ってしまったわけだ。

驚くほどの製品をアップルが開発できるのは、卓越性の追求がアップルのDNAに深く刻みこまれているからだ。スティーブ・ジョブズも、1988年、ビジネスウィーク誌のインタビューで「卓越さが求められる場に慣れていない人もいる」と語っている。

フォーカスグループは使いません。誰の気分も損なわないようにするのがフォーカスグループであり、そこからは、口当たりがよく、とんがっていない製品しか生まれません。ーージョナサン・アイブ

ジョブズは2000年1月にOSXを発表したが、そのとき、新しいユーザーインターフェース、アクアのデザインにおける目標は、あまりにかっこよくて思わずなめたくなるようなスクリーンにすることだと語っている。

第9章 顧客をシンク・ディファレント

我々のまわりにはゴミのような製品があふれている。どの製品も、ただただ妥協の産物だからだ。プロダクトマネージャーにエンジニアリングマネージャー、マーケティングマネージャー、セールスマネージャーなど、さまざまな関係者が、ターゲットとする顧客のニーズだと自分が思うものにしようとするからだ。ジョブズやアイブがすばらしい製品を生みだせるのは、シンプルでエレガントなインターフェースを持つセクシーな製品を「自分で」デザインするからだ。そして、新し物好きな人たちは自分たちと同じ感覚を持つはずだと信じて進む。この雪玉が転がりはじめれば、もう、誰にも止められない。

DNA11が成功したのは、市場調査のおかげでもなければフォーカスグループのおかげでもない。顧客が夢ーー自分だけのユニークなアートが欲しいという夢ーーを実現する手伝いをしたからだ。あなたの顧客はどういう夢を持っているだろうか。夢を売ろう。製品ではなく。

5ドルは魔法の数字だった。でもフォーカスグループでは得られない。この数字にフランケルが気づいたのは、顧客のことを肌で知っており、彼らの苦労を理解していたからだ。このアイデアは「ニーズ」を満足したわけではない。サブウェイのサンドイッチを必要とする人などいない。ただ、毎日の暮らしをほんの少しよくしたい、ちょっと得した気分でおいしい食事がしたい・・・人々はそう思っていただけだ。

顧客はあなたがどうなろうと気にしない。きつい言い方かもしれないが真実だ。あなたの会社がどうなろうと気にしない。あなたの製品やサービスがどうなろうと気にしない。顧客が気にかけるのは自分のこと、自分の夢、自分の目標だ。彼らの目標達成を手助けすれば、もっと注意を払ってもらえる。そのためには、彼らの目標はもちろん、ニーズや心の奥底に潜む願いまで把握する必要がある。

アイデアが実際の製品やサービス、会社、構想、行動となり、社会を前に進めなければイノベーションとは言わない。顧客について知ればーー望みや夢、目標なども含めて深く知れば、アイデアを優れた製品にできる可能性が高くなる。

法則5 1000ものことにノーという

第10章 洗練を突きつめると簡潔になる

世の中にあふれる製品の大半が抱えている問題は、それをつくっている会社が顧客の体験を親身になって考えていないことだとアイブは考えている。顧客の体験を親身になって考えれば、部品を集めただけの製品などつくるはずがない。細かな部分まで磨きをかけるはずだし、必要のないものがあれば取り除くはずだ。

アップルは細かなところまでそぎ落として複雑さを引き下げるーーあるいは複雑でなくすーー努力をする。そこになければならないものでなければなくすのだ。

個性的なだけのものなら簡単につくれますからね。シンプルを追求して追求した結果、個性が生まれる。そういうことなのだとわかったとき、おもしろいなと思いました。

機能が増えるほど製品は記憶に残らなくなる。信じられないかもしれないが、すっきりさせたほうが製品は特徴的になる。エレガントになる。そして、エレガントなものは魅力的だ。

簡潔にする、シンプルにするとは、製品の本質的な意義にピントを合わせることを意味する。

まったく新しいものをアップルが発明したことはないとチェイズンは言う。パーソナルコンピューターもMP3プレイヤーも、ダウンロード可能な音楽も携帯電話もタブレットコンピューターもアップルが発明したものではない。しかし、誰も見たことがないものをつくることだけがイノベーションではない。発明はしなかったかもしれないが、アップルには得意なことがある。複雑なものをシンプルでエレガントにすることだ。これこそ、世界でもっとも革新的な会社だと言われるようになった理由である。

第11章 デザインをシンク・ディファレント

2007年、新しいカメラを置いてほしいと小売店にプレゼンテーションしたとき、フレミングウッドは、時間の半分をとてもシンプルなスライド、1枚に費やした。訴えたのは、ビデオカメラというカテゴリーの「認識を変える」こと。スライドには、普通のビデオカメラとフリップの写真があり、普通のビデオカメラの下には「特別なときに使う」、フリップの下には「それ以外のすべてに使う」と書かれていた。これだけでフリップの哲学がわかるし、このカテゴリーに対してどういうビジョンを提示しているのかもわかる。

「どうすれば顧客が暮らしやすくなるのか、シンプルでよい暮らしができるようになるのか」を考えてみよう。革新的な会社というのは、得意なことに顧客が集中できる製品やサービスを提供する。

多すぎる機能が詰め込まれた製品は、自分たちは何をしたいのか、その会社のリーダーがよくわかっていないことを示していると、イノベーションの専門家、ロベルト・ヴェルガンティは指摘する。どういう製品にすべきかわかっていないか、あまりに多くの人の意見を採用しようとして混乱を招いたかなのだ。

ウェブサイトを訪れる人々には目的がある。何かを知りたいことがある、何かを読みたい、何かを注文したいなどだ。文字や選択肢を増やしすぎると、したいことがやりにくくなって顧客の体験が劣化するのだ。

コリンズが提案する、非凡な人生が送れるシンプルな枠組みを紹介しよう。まず、次の点を自問自答する。

  • 心の底から望むものは何か。
  • 自分の遺伝子に組み込まれているのは何か。「自分が生まれたのはこれをするためだった」と感じるのは何をしているときか。
  • 経済的に成立するのは何か、生計を立てられるのは何か。 次に、実際に行動がどうなっているかをチェックする。上記の答え以外に時間の半分以上を使っているなら、「やめること」リストをつくる。「人生を創造的な芸術作品にしよう」

事業においては、何を追加したかで特徴をだそうとするのではなく、何を取り除いたかを自分の特徴としよう。人生においては、いくつのプロジェクトを推進したかではなく、いくつのプロジェクトをやらないと決めたかに注目し、人生を成功に導こう。
シンプルだろう?

法則6 めちゃくちゃすごい体験をつくる

第12章 我々は、みなさんの成長をお手伝いするためにいるのです

アップルストアが失敗すると思った人々は、計算高いがゆえに判断を誤った。アップルの目的が小売店舗をつくることではなく、体験をつくることだと気づかなかったのだ。

ジョブズが小売の空間でもイノベーションを実現できたのは、他社よりも大きなビジョンを持っていたからだ。製品を求めてアップルストアに来店した客には、元気になったと「感じながら」店を出てもらおうと考えたからだ。

これこそ、アップルが小売業界に旋風を巻きおこした理由なのだ。小売業者は、普通、製品を動かすことを仕事とする。アップルは客の成長を手伝うことを仕事とする。この違いは大きい。

第13章 ブランド体験をシンク・ディファレント

競合他社から盗んでも短期的には成功できるかもしれないが、イノベーションのリーダーにはまずなれない。リーダーのコピーでしかないからだ。それはイノベーションと言わない。他の業界に存在する何かに目を付け、それを応用して顧客の体験を大きく改善したとき、それをイノベーションと呼ぶ。

スティーブ・ジョブズも指摘しているように、支出額の多寡とイノベーションの間に相関はない。
イノベーションとは、顧客が大好きな製品やサービス、体験を生みだすことだ。

法則7 メッセージの名人になる

第14章 企業社会最高の語り部

最後を、アップルが望むとおりに世界が新製品をとらえてくれるようにする一文、ツイッターでもつぶやけるような一文で締めくくったのだ。新製品を紹介するとき、ジョブズはかならずこうする。

スティーブ・ジョブズはメッセージの名手であり、自分の考えを上手に伝えて投資家や社員、顧客を味方につけ、ビジョンの実現に向けた旅の道連れとしてしまうのだ。
効果的に伝えられなければ、山のようなアイデアが日の目を見ずに終わってしまう。もちろん、社会を前に進めることもできない。

アップルは、IBMを歓迎するという全面広告をウォールストリートジャーナル紙とニューヨークタイムズ紙に出すという大胆な戦略に出た。

生まれたばかりのスタートアップが、自社の10倍という大企業、IBMの競争相手だと世間に認めさせることに成功したからだ。

ダビデとゴリアテの物語ーー策謀とスキル、そして、自らを信じる強い気持ちをもって、かなうはずのない強大な悪人に挑む小さな男の物語ーーは、いつの世でも人気が高い。優れた映画にもお話しにも、かならずヒーローと悪玉が登場するが、アップルの話も例外ではない。

その話を誰よりも上手に語るのがスティーブ・ジョブズである。
「我々が大きなへまをやらかし、IBMが勝ってしまったら、コンピューターの暗黒時代が20年くらいは続くんじゃないかと思う。IBMという会社は、市場を支配するとイノベーションをやめてしまう。いや、イノベーションが起きないようにしてしまう・・・アップルは、別の選択肢を提供しようとしているんだ」

スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションには、ヒーローと悪玉がいる。主役とともに敵役がかならず登場するのだ。iPadのプレゼンテーションもそうだった。1980年代初頭は敵役としてIBMが登場したが、競合するものが敵役でなければならないわけではない。そうではないことのほうが多く、ジョブズは、よく、解決しなければならない問題という形で悪玉を導入する。もちろん、ヒーローはアップルである。

彼ほど大胆な表現をする人はめったにいない。アップルのコンピュータのスクリーンに表示されるボタンがあまりにすてきで「思わずなめたくなるほどだ」と表現したことさえある。iPhone 3Gは「びっくりするほどキレがいい」だ。

デザインと顧客サービスが優れているだけではそれなりにしかならないと理解しているからだ。多くの人が好意的に取りあげてくれないとイノベーションは生まれない。

第15章 ストーリーをシンク・ディファレント

アイデアというのは昔から掃いて捨てるほどあったが、最近、その傾向がとみに強くなっている。新しい『新型』が次から次へと登場するのだ。成功に必要な注目を集めるためには、価値のある明快なアイデアとする必要がある。新たなイノベーションを推進したければ、資金・人員という資源の手当てもしなければならない。つまり、社長か取締役会かベンチャーキャピタリストか、はたまた政府プログラムの管理者か、そういう人にいいアイデアだと納得してもらう必要がある。

アイデアはすばらしいのに、コミュニケーションが下手でつぶしてしまうなど、もったいないことはもうやめよう。すばらしいプレゼンテーションには、他人の心を動かす力、大きなうねりを生みだす力、会社を大きくする力がある。自分の帝国をつくりあげよう。やり方はスティーブ・ジョブズが教えてくれる。