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人を動かす

人を動かす
デール・カーネギー

人を動かす三原則

①盗人にも五分の理を認める

心理学者ハンス・セリエはこう言う。
「我々は他人からの賞賛を強く望んでいる。そして、それと同じ強さで他人からの非難を恐れている」
批判が呼び起こす怒りは、従業員や家族・友人の意欲をそぐだけで、批判の対象とした状態は少しも改善されない。
人を避難する代わりに、相手を理解するように努めようではないか。どういうわけで、相手がそんなことをしでかすに至ったか、よく考えてみようではないか。そのほうがよほど得策でもあり、また、面白くもある。そうすれば、同情、寛容、好意も、自ずと生まれ出てくる。
すべてを知れば、すべてを許すことになる。
  • 人を動かす原則① 批判も批難もしない。苦情も言わない。

②重要感を持たせる

自己の重要感を満足させる方法は、人それぞれに違っており、その方法を聞けば、その人物がどういう人間であるかがわかる。
お世辞と感嘆の言葉とは、どう違うか?答えは、簡単である。後者は真実であり、前者は真実でない。後者は心から出るが、前者は口からでる。後者は没我的で、前者は利己的である。後者は誰からも喜ばれ、前者は誰からも嫌われる。
自分の長所、欲求を忘れて、他人の長所を考えようではないか。そうすれば、お世辞などはまったく無用になる。嘘ではない心からの賞賛を与えよう。
  • 人を動かす原則② 素直で、誠実な評価を与える。

③人の立場に身を置く

我々は、自分の好きなものに興味を持つ。生涯持ち続けるだろう。しかし、自分以外には、誰も、そんなものに興味を持ってはくれない。誰も彼も、我々同様、自分のことでいっぱいなのだ。
だから、人を動かす唯一の方法は、その人の好むものを問題にし、それを手に入れる方法を教えてやることだ。
人を説得して何かやらせようと思えば、口を開く前に、まず自分に尋ねてみることだー「どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか?」
これをやれば、自分勝手な無駄口を相手に聞かせずに済むはずだ。
本書から”常に相手の立場に身を置き、相手の立場から物事を考える”という、たった一つのことを学びとっていただければ、成功への第一歩が、すでに踏み出されたことになる。
他人の立場に身を置き、その心の中に欲求を起こさせるということは、相手をうまく操ってこちらの利益にはなるが先方には損になることをやらせることでは決してない。双方が利益を得なければ嘘である。
相手の心の中に強い欲求を起こさせること。これをやれる人は、万人の支持を得ることに成功し、やれない人は、一人の支持者を得ることにも失敗する。
  • 人を動かす原則③ 強い欲求を起こさせる。

人に好かれる六原則

①誠実な関心を寄せる

友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。
ところが、世の中には、他人の関心を引くために、見当違いな努力を続け、その誤りに気づかない人がたくさんいる。
これでは、いくら努力しても、もちろん無駄だ。人間は、他人のことには関心を持たない。ひたすら自分のことに関心を持っているのだー朝も、昼も、晩も。
「まずあなたが相手に関心を持たないとすれば、どうして、相手があなたに関心を持つ道理があろうか?」
単に人を感服させてその関心を呼ぼうとするだけでは、決して真の友を多くつくることはできない。真の友は、そういうやり方ではつくれないのである。
ウィーンの有名な心理学者アルフレッド・アドラーは、その著書でこう言っているー
「他人のことに関心を持たない人は、苦難の人生を歩まねばならず、他人に対しても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人たちの間から生まれる」
紀元前100年に、ローマの詩人パブリアス・シラスがすでに次のごとく説いているー
「我々は、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる」
他人に示す関心は、人間関係の他の原則と同様に、必ず心底からのものでなければならない。関心を示す人の利益になるだけでなく、関心を示された相手にも利益を生まねばならない。一方通行ではなく、双方の利益にならなくてはいけない。
  • 人に好かれる原則① 誠実な関心を寄せる。

②笑顔を忘れない

彼女は何とかして皆に好印象を与えたいと懸命になっていた。豪華なミンクの毛皮やダイヤモンド、真珠などを身につけていたが、顔のほうは放ったらかしだった。顔には、意地悪さとわがままさがありありと現れていたのである。身につける衣装よりも、顔に現れる表情のほうが女性にとってどれほど大切かしれないという、男なら誰でも知っている事柄を、彼女は知らなかったわけだ。
心にもない笑顔ーそんなものには、誰もだまされない。そんな機械的なものには、むしろ腹が立つ。私は真の微笑みについて語っているのである。心温まる微笑み、心の底から出てくる笑顔、千金の価値のある笑顔について語っているのだ。
世の中の人は皆、幸福を求めているが、その幸福を必ず見つける方法が一つある。それは、自分の気の持ち方を工夫することだ。幸福は外的な条件によって得られるものではなく、自分の気の持ち方一つで、どうにでもなる。
心の働きは絶妙なものである。正しい精神状態、すなわち勇気、率直、明朗さを常に持ち続けること。正しい精神状態は優れた想像力を備えている。すべての物事は願望から生まれ、心からの願いはすべてかなえられる。人間は、心がけたとおりになるものである。あごを引いて頭をまっすぐに立てよう。神となるための前段階ーそれが人間なのだ。
クリスマス・セールで疲れきった店員のうちに、これをお見せしない者がございましたら、恐れ入りますが、お客さまの分をお見せ願いたいと存じます。笑顔を使い切った人間ほど、笑顔を必要とするものはございません。
  • 人に好かれる原則② 笑顔で接する。

③名前を覚える

フランクリン・ルーズヴェルトは、人に好かれる一番簡単で、わかりきった、しかも一番大切な方法は、相手の名前を覚え、相手に重要感を持たせることだということを知っていたのである。ところで、それを知っている人が、世の中に何人いるだろうか?
  • 人に好かれる原則③ 名前は、当人にとって、最も快い、最も大切な響きを持つ言葉であることを忘れない。

④聞き手にまわる

話し上手とは、驚いた。あの時、私は、ほとんど何もしゃべらなかったのである。しゃべろうにも、植物学に関してはまったくの無知で、話題を変えでもしない限り、私には話す材料がなかったのだ。もっとも、しゃべる代わりに、聞くことだけは、確かに一心になって聞いた。心から面白いと思って聞いていた。それが、相手にわかったのだ。したがって、相手はうれしくなったのである。こういう聞き方は、私たちが誰にでも与えることのできる最高の賛辞なのである。
あなたの話し相手は、あなたのことに対して持つ興味の百倍もの興味を、自分自身のことに対して持っているのである。中国で百万人が餓死する大飢饉が起こっても、当人にとっては、自分の歯痛のほうがはるかに重大な事件なのだ。首にできたおできのほうが、アフリカで自身が四十回起こったよりも大きな関心事なのである。人と話をする時には、このことをよく考えていただきたい。
  • 人に好かれる原則④ 聞き手にまわる。

⑤関心のありかを見抜く

ルーズヴェルトは誰か訪ねてくる人があるとわかれば、その人の特に好きそうな問題について、前の晩に遅くまでかかって研究しておいたのである。
ルーズヴェルトも、他の指導者たちと同じように、人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすることだと知っていたのだ。
相手の関心を見抜き、それを話題にするやり方は、結局、双方の利益になる。従業員間コミュニケーションの指導者ハワード・ハージッグは、常にこの原則を守ってきた。その成果について、ハージッグ氏はこう述べている。
「相手次第で成果も違うが、概して言えば、どんな相手と話をしてもそのたびに自分自身の人生が広がるーそれが、何よりの成果だ」
  • 人に好かれる原則⑤ 相手の関心を見抜いて話題にする。

⑥心からほめる

他人を喜ばせたり、ほめたりしたからには、何か報酬をもらわねば気が済まぬというようなけちな考えを持った連中は、当然、失敗するだろう。
いや、実は、私もやはり報酬を望んでいたのだ。私の望んでいたのは、金では買えないものだ。そして、確かにそれを手に入れた。彼のために尽くしてやり、しかも彼には何の負担もかけなかったというすがすがしい気持ちが、それだ。こういう気持ちは、いつまでも楽しい思い出となって残るものなのである。
「常に相手に重要感を持たせること」
すでに述べたように、ジョン・デューイ教授は、重要な人物になりたいという願望は人間の最も根強い欲求だと言っている。また、ウィリアム・ジェイムズ教授は、人間性の根本をなすものは、他人に認められたいという願望だと断言している。この願望が人間と動物とを区別するものであることはすでに述べたとおりだが、人類の文明も、人間のこの願望によって進展してきたのである。
人間は、誰でも周囲の者に認めてもらいたいと願っている。自分の真価を認めてほしいのだ。小さいながらも、自分の世界では自分が重要な存在だと感じたいのだ。見えすいたお世辞は聞きたくないが、心からの賞賛には飢えているのだ。
人は誰でも他人より何らかの点で優れていると思っている。だから、相手の心を確実につかむ方法は、相手が相手なりの世界で重要な人物であることを素直に認め、そのことをうまく相手に悟らせることだ。
エマーソンが、どんな人でも自分より何らかの点で優れており、学ぶべきところを備えていると言ったことを思い出していただきたい。
ところが哀れなのは、何ら人に誇るべき美点を備えず、そのことからくる劣等感を、鼻持ちならぬうぬぼれや自己宣伝で紛らわそうとする人たちである。
シェイクスピアは、そのあたりの事情を「傲慢不遜な人間め!取るにも足らぬことを種にして、天使をも泣かせんばかりのごまかしをやってのけおる」と表現している。
  • 人に好かれる原則⑥ 重要感を与えるー誠意を込めて。

人を説得する十二原則

①議論を避ける

僕たちは、めでたい席に招かれた客だよ。なぜあの男の間違いを証明しなきゃならんのだ。証明すれば相手に好かれるかね?相手の面子のことも考えてやるべきだよ。まして相手は君に意見は求めはしなかっただろう。君の意見など聞きたくなかったのだ。議論などする必要がどこにある?どんな場合にも鋭角は避けたほうがいいんだ
議論は、ほとんど例外なく、双方に、自説をますます正しいと確信させて終わるものだ。
議論に勝つことは不可能だ。もし負ければ負けたのだし、たとえ勝ったにしても、やはり負けているのだ。なぜかと言えばー仮に相手を徹底的にやっつけたとして、その結果はどうなる?ーやっつけたほうは大いに気をよくするだろうが、やっつけられたほうは劣等感を持ち、自尊心を傷つけられ、憤慨するだろう。
ー「議論に負けても、その人の意見は変わらない」
”意見の不一致を歓迎せよ”ー「二人の人間がいて、いつも意見が一致するなら、そのうちの一人はいなくてもいい人間だ」という言葉を銘記すべきだ。思い及ばなかった点を指摘してくれる人がいたら感謝しなければならない。この指摘は、重大な失敗をあらかじめ防ぐきっかけをつくってくれているのだ。
  • 人を説得する原則① 議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。

②誤りを指摘しない

「おそらく私の間違いでしょう」と言って、面倒の起きる心配は絶対にない。むしろ、それで議論が収まり、相手も、こちらに負けず寛大で公正な態度をとりたいと思うようになり、自分も間違っているかもしれないと反省する。
我々は、自分の非を自分で認めることはよくある。また、それを他人から指摘された場合、相手の出方が優しくて巧妙だと、あっさり非を認め、むしろ自分の率直さや腹の太さに誇りを感じることさえある。しかし、相手がそれを無理やりに押しつけてくると、そうはいかない。
相手の間違いを、頭から決めつけるやり方は、効果がないどころか、結局は、相手の自尊心を傷つけ、皆からも敬遠されて、話し合いもできなくなるのがおちだと悟った。
  • 人を説得する原則② 相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。

③誤りを認める

警察も人間だ。やはり、自己の重要感がほしかったのである。私が自分の罪を認めた時、彼の自負心を満足させる唯一の方法は、私を許して太っ腹なところを見せることだったのだ。
だが、もし私が言い逃れをしたとすればー警察と議論をすれば、どんなことになるか、読者もご存知のはずだ。
自分が悪いと知ったら、相手にやっつけられる前に自分で自分をやっつけておいたほうが、はるかに愉快ではないか。他人の非難よりも自己批判のほうがよほど気が楽なはずだ。
どんな馬鹿でも過ちの言い逃れぐらいはできる。事実、馬鹿はたいていこれをやる。自己の過失を認めることは、その人間の値打ちを引き上げ、自分でも何か高潔な感じがしてうれしくなるものだ。
自分が正しい時には、相手を優しく巧妙に説得しようではないか。また、自分が間違っている時ーよく考えてみると、自分の間違っている場合は驚くほど多いものだーそういう時には、すみやかに自分の誤りを快く認めることにしよう。この方法には予想以上の効果がある。
そのうえ、苦しい言いわけをするよりも、このほうが、よほど愉快な気持ちになれる。
ことわざにも「負けるが勝ち」と言う。
  • 人を説得する原則③ 自分の誤りを直ちに快く認める。

④穏やかに話す

腹がたった時、相手を思い切りやっつければ、さぞかし胸がすくだろう。だがやっつけられたほうは、同じように胸がすくだろうか?喧嘩腰でやっつけられて、気持ちよくこちらの思いどおりに動いてくれるだろうか?
ウッドロー・ウィルソン大統領はこう言うー
「もし、相手が拳を固めてやってくれば、こちらも負けずに拳を固めて迎える。だが、相手が『お互いによく相談してみようではありませんか。そして、もし意見の相違があれば、その理由や問題点をつきとめましょう』と穏やかに言えば、やがて、意見の相違は思ったほどでもなく、互いに忍耐と率直さと善意を持てば、解決できることがわかる」
相手の心が反抗と憎悪に満ちている時は、いかに理を尽くしても説得することはできない。子供を叱る親、権力を振りまわす雇い主や夫、口やかましい妻ーこういった人たちは、人間は自分の心を変えたがらないということをよく心得ておくべきだ。人を無理に自分の意見に従わせることはできない。しかし、優しい打ち解けた態度で話し合えば、相手の心を変えることもできる。
もし相手を自分の意見に賛成させたければ、まず諸君が彼の味方だとわからせることだ。これこそ、人の心をとらえる一滴の蜂蜜であり、相手の理性に訴える最善の方法である。
親切、友愛、感謝は世のいっさいの怒声よりもたやすく人の心を変えることができる。
リンカーンの名言”バケツ一杯の苦汁よりも一滴の蜂蜜のほうが多くのハエがとれる”をよく心にとどめておいていただきたい。
  • 人を説得する原則④ 穏やかに話す。

⑤イエスと答えられる問題を選ぶ

人と話をする時、意見の異なる問題をはじめに取り上げてはならない。まず、意見が一致している問題からはじめ、それを絶えず強調しながら話を進める。互いに同一の目的に向かって努力しているのだということを、相手に理解させるようにし、違いはただその方法だけだと強調するのである。
人に”イエス”と言わせるこの技術は、きわめて簡単だ。それでいて、この簡単な技術が、あまり用いられない。頭から反対することによって、自己の重要感を満たしているのかと思われるような人がよくいる。生徒にしろ、顧客にしろ、その他、自分の子供、夫、あるいは妻にしても、はじめに”ノー”と言わせてしまうと、それを”イエス”に変えさせるには、大変な知恵と忍耐がいる。
議論をすれば損をする。相手の立場で物事を考えることは、議論をするよりもかえって興味深く、しかも、比較にならぬほどの利益がある。考えてみると、私はずいぶん長い間、議論で莫大な損をしてきた。
  • 人を説得する原則⑤ 相手が即座に”イエス”と答える問題を選ぶ。

⑥しゃべらせる

相手を説得しようとして、自分ばかりしゃべる人がいる。相手に十分しゃべらせるのだ。相手のことは相手が一番よく知っている。だから、その当人にしゃべらせることだ。
相手の言うことに異議をはさみたくなっても、我慢しなくてはいけない。相手が言いたいことをまだ持っている限り、こちらが何を言っても無駄だ。大きな気持ちで辛抱強く、しかも、誠意を持って聞いてやる。そして、心おきなくしゃべらせてやるのだ。
友達同士の間柄でも、相手の自慢話を聞くよりも、自分の手柄話を聞かせたいものなのだ。
フランスの哲学者ラ・ロシュフコーの言葉に、こういうのがあるー
「敵をつくりたければ、友に勝つがいい。味方をつくりたければ、友に勝たせるがいい」
  • 人を説得する原則⑥ 相手にしゃべらせる。

⑦思いつかせる

人から押しつけられた意見よりも、自分で思いついた意見のほうを、我々は、はるかに大切にするものである。すると、人に自分の意見を押しつけようとするのは、そもそも間違いだと言える。暗示を与えて、結論は相手に出させるほうが、よほど利口だ。
二千五百年前に、中国の賢人老子が、現代にも通用する言葉を残している。
「川や海が数知れぬ渓流の注ぐところとなるのは、身を低きに置くからである。そのゆえに、川や海はもろもろの渓流に君臨することができる。同様に、賢者は、人の上に立たんと欲すれば、人の下に身を置き、人の前に立たんと欲すれば、人の後ろに身を置く。かくして、賢者は人の上に立てども、人はその重みを感じることなく、人の前に立てども、人の心は傷つくことがない」
  • 人を説得する原則⑦ 相手に思いつかせる。

⑧人の身になる

相手は間違っているかもしれないが、相手自身は、自分が間違っているとは決して思っていないのである。だから、相手を非難してもはじまらない。非難は、どんな馬鹿者でもできる。理解することに努めねばならない。賢明な人間は、相手を理解しようと努める。
相手の考え、行動には、それぞれ、相当の理由があるはずだ。その理由を探し出さねばならないーそうすれば、相手の行動、相手の性格に対する鍵まで握ることができる。
J・S・ニーレンバーグ博士はその著書『人とつきあう法』の中で、次のように述べている。
「自分の意見を述べるだけでなく、相手の意見をも尊重するところから、話し合いの道が開ける。まず、話し合いの目的、方向をはっきりさせて、相手の身になって話を進め、相手の意見を受け入れていけば、こちらの意見も、相手は受け入れる」
正義感に燃えて、つい間違った方法をとった。少年たちのそばへ駆けつけ、たき火をすると罰せられるからやめろと、居丈高になって命令した。それでも聞かない場合は、警官に逮捕してもらうとおどした。少年たちの立場など少しも考えず、ただ、自分の気の済むようにしていたにすぎなかったのだ。
その結果はー少年たちは私の言うとおりにした。内心は怒りながら、渋々言うとおりにした。私がいなくなると、彼らは早速また、たき火をはじめたことだろう。大火事になって公園が全焼すればいい気味だと思っていたかもしれない。
  • 人を説得する原則⑧ 人の身になる。

⑨同情を寄せる

「あなたがそう思うのは、もっともです。もし私があなっただったら、やはり、そう思うでしょう」こう言って話をはじめるのだ。
どんなに意地悪な人間でもこういうふうに答えられると、大人しくなるものだ。しかも相手の立場になれば、当然相手と同じ考えを持つわけだから、この文句には百パーセントの誠意がこもるはずだ。
我々の人となりには、自分が手を下してつくった部分は、ほんのわずかしかない。したがって、我々の接する相手が、どんなにいら立っていたり、偏屈だったり、わからずやだったとしても、その責めをすべて本人に帰するわけにはいかない。気の毒だと思ってやるべきだ。同情してやることだ。そしてこう考えるのだ。
「もし神様のお恵みがなかったら、この相手が、私自身の姿なのだ」
私が彼女にわびて、彼女の立場に同情すると、彼女も私にわび、私の立場に同情してくれた。私は一時の腹立ちを我慢した甲斐があったと思い、晴れ晴れした気持ちになった。相手をやっつけるよりも、相手に好かれるほうが、よほど愉快である。
アーサー・ゲイツ博士の有名な著書『教育心理学』に、こういうことが書いてあるー
「人間は一般に、同情をほしがる。こどもは傷口を見せたがる。時には同情を求めたいばかりに、自分から傷をつけることさえある。大人も同様だー傷口を見せ、災難や病気の話をする。ことに手術を受けた時の話などは、事細かに話したがる。不幸な自分に対して自己憐憫を感じたい気持ちは、程度の差こそあれ、誰にでもあるのだ」
  • 人を説得する原則⑨ 相手の考えや希望に対して同情を寄せる。

⑩美しい心情に呼びかける

相手の信用状態が不明な時は、彼を立派な紳士と見なし、そのつもりで取引を進めると間違いがないと、私は経験で知っている。要するに、人間は誰でも正直で、義務を果たしたいと思っているのだ。これに対する例外は、比較的少ない。人をごまかすような人間でも、相手に心から信頼され、正直で公正な人物として扱われると、なかなか不正なことはできないものなのだ。
  • 人を説得する原則⑩ 人の美しい心情に呼びかける。

⑪演出を考える

現代は演出の時代である。単に事実を述べるだけでは十分ではない。事実に動きを与え、興味を添えて演出しなければならない。興行的な手法を用いる必要がある。映画、ラジオ、テレビなど、皆この手法を使っている。人の注意を引くには、これによるのが何よりも有効だ。
コールド・クリームの容器を取り出して、彼の机の上に並べた。彼が知っている限りの製品、すなわち、彼の競争相手の製品全部である。
各容器には、調査結果を記入した札がつけてある。それぞれの札が、そのクリームの売れ行き状態を、簡明に、かつ劇的に語るという仕組みだ。
…
私は前の時と同じ事実を提供したのだが、この時は、演出効果を狙った点が違っていたのだ。興行的な手法にこれほどの効き目があるとは知らなかった。
  • 人を説得する原則⑪ 演出を考える。

⑫対抗意識を刺激する

シュワッブは、今朝またやってきた。夜勤組が”六”を消して、大きな字で”七”と書いてあった。
昼勤組が出勤してみると、床の上に”七”と大書してある。夜勤組のほうが成績をあげたことになる。昼勤組は対抗意識を燃え上がらせて頑張り、退勤時には”十”と書き残した。こうして、この工場の能率はぐんぐん上がっていった。
これについて、シュワッブ自身の言葉を紹介しようー
「仕事には競争心が大切である。あくどい金儲けの競争ではなく、他人よりも優れたいという競争心を利用すべきである」
優位を占めたいという欲求、対抗意識、負けじ魂、男の気迫に訴えるのだ。
ファイアストン・ゴム会社の創設者ハーヴェイ・ファイアストンはこう言うー
「給料さえ出せば人が集まり、人材が確保できるとは限らない。ゲームの精神を取り入れることが必要だ」
最大の要件は、仕事そのものだったのである。仕事が面白ければ、誰でも仕事をしたがり、立派にやり遂げようと意欲を燃やす。
成功者は皆ゲームが好きだ。自己表現の機会が与えられるからだ。存分に腕をふるって相手に打ち勝つ機会、これが、いろいろな競争や競技を成立させる。優位を占めたい欲求、重要感を得たい願望、これを刺激するのだ。
  • 人を説得する原則⑫ 対抗意識を刺激する。

人を変える九原則

①まずほめる

我々は、ほめられたあとでは、苦言もたいして苦く感じないものだ。
理髪師はかみそりをあてる前に石鹸の泡を塗る。
工場を見学しながら、ゴウ氏はその施設や制度をほめ、他の業者には見られない優秀なものだと言った。彼が珍しい機械を見て関心すると、社長は、その機械は自分が発明したのだと得意になり、相当な時間をかけてこの機械を操作して見せた。昼食も一緒にしようと言って聞かない。その時まで、ゴウ氏がまだ一言も用件に触れていないことに留意していただきたい。
昼食が済むと、社長はこう切り出したー
「さて、いよいよ商売の話に移りましょう。もちろん、あなたがいらっしゃった目的は十分承知しています。あなたとこんなに楽しい話をしようとは予想していませんでした。他の注文は遅らせても、あなたのほうはきっと間に合いますから、安心してお帰りください」
  • 人を買える原則① まずほめる。

②遠まわしに注意を与える

一人一人に葉巻を与え、「さあ、皆で外へ出て吸ってきたまえ」と言った。もちろん彼らが禁を破って悪いと自覚しているのを、シュワッブは見抜いていたが、それには一言も触れないで、心尽くしの葉巻まで与え、顔を立ててやったのだから、彼らに心服されるのは当然の話である。
この失敗は”しかし”という言葉を、”そして”に変えると、すぐに成功に転じる。
「ジョニー、お父さんもお母さんも、お前の今学期の成績が上がって、本当に鼻が高いよ。そして、来学期も同じように勉強を続ければ、代数だって、他の課目と同じように成績が上がると思うよ」
  • 人を変える原則② 遠まわしに注意を与える。

③自分の過ちを話す

人に小言を言う場合、謙虚な態度で、自分は決して完全ではなく、失敗も多いがと前置きして、それから間違いを注意してやると、相手はそれほど不愉快な思いをせずに済むものだ。
フォン・ブロウは危ないところを助かった。しかし、彼ほどの抜け目ない外交家も、やはり失敗したわけである。まず最初に、自分の短所と皇帝の長所とを述べなければならなかったのに、逆に皇帝を馬鹿者扱いにしたのだ。
この例を見ても明らかなように、謙遜と賞賛は、我々の日常の交際にも、大きな効果を発揮することができるはずだ。正しく応用すれば、人間に奇跡を生み出すこともできるだろう。
自分自身の誤りを認めることはーたとえその誤りを正さず、そのままにしておいてもー有効である。
  • 人を変える原則③ まず自分の誤りを話したあと相手に注意する。

④命令をしない

ヤングは誰に向かっても決して命令的なことは言わなかったそうだ。命令ではなく、暗示を与えるのだ。「あれをせよ」「そうしてはいけない」などとは決して言わなかった。「こう考えたらどうだろう」「これでうまくいくだろうか」などといった具合に相手の意見を求めた。彼の部下が書いた手紙に目を通して「ここのところは、こういう言い方をすれば、もっとよくなるかもしれないが、どうだろう」と言うこともよくあった。彼はいつも自主的に仕事をやらせる機会を与えたのだ。決して命令はせず、自主的にやらせる。そして、失敗によって学ばせた。
こういうやり方をすると、相手は自分の過ちが直しやすくなる、また、相手の自尊心を傷つけず、重要感を与えてやることにもなり、反感の代わりに協力の気持ちを起こさせる。
命令を質問の形に変えると、気持ちよく受け入れられるばかりか、相手に創造性を発揮させることもある。命令が出される過程に何らかの形で参画すれば、誰でもその命令を守る気になる。
  • 人を変える原則④ 命令をせず、意見を求める。

⑤顔をつぶさない

彼は必要欠くべからざる人物だが、一面非常に神経質な男だった。そこで、会社は新しい職名を設けて彼をその職に任命した”ゼネラル・エレクトリック社顧問技師”というのがその職名である。といっても、仕事は別に変わらない。そして、部長には、別の男をすえた。
スタインメッツも喜んだ。
重役たちも喜んだ。あれほどの気難し屋を、顔を立てることによって、無事に動かしえたのだ。
部長は、私の労をねぎらい、新しい企画には、ミスはつきものだと言い、再調査が正確で有意義なものになることを確信すると述べました。部長は私を信じており、私が最善を尽くして、なお失敗したのは、能力不足ではなく、経験不足からだと、全員の前で言ってくれたのです。
たとえ自分が正しく、相手が絶対に間違っていても、その顔をつぶすことは、相手の自尊心を傷つけるだけに終わる。あの伝説的人物、フランス航空界のパイオニアで作家のサンテグジュペリは、次のように書いている。
「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪におちいらせるようなことを言ったり、したりする権利は私にはない。大切なことは、相手を私がどう評価するかではなくて、相手が自分自身をどう評価するかである。相手の人間としての尊厳を傷つけることは犯罪なのだ」
  • 人を変える原則⑤ 顔を立てる。

⑥わずかなことでもほめる

犬が少しでもうまくやると、なでてやったり、肉を与えたりして、大げさにほめてやる。
このやり方は、決して新しくない。動物の訓練には、昔からこの手を用いている。
我々は、このわかりきった方法を、なぜ人間に応用しないのだろう?なぜ、鞭の代わりに肉を、批評の代わりに賞賛を用いないのだ?たとえ少しでも相手が進歩を示せば、心からほめようではないか。それに力を得て、相手はますます進歩向上するだろう。
誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持っていてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである。
我々には、他人から評価され、認められたい願望があり、そのためにはどんなことでもする。だが、心のこもらないうわべだけのお世辞には、反発を覚える。
重ねて言う。本書の原則は、それが心の底から出る場合に限って効果を上げる。小手先の社交術を説いているのではない。新しい人生のあり方を述べているのである。
人を変えようとして、相手の心の中に隠された宝物の存在に気づかせることができたら、単にその人を変えるだけでなく、別人を誕生させることすらできるのである。
  • 人を変える原則⑥ わずかなことでも惜しみなく心からほめる。

⑦期待をかける

彼女はコック長の甥と近く結婚することになったと私に知らせました。『私はレディーになるのです』と言って、私に例を述べました。私の一言が、この娘の人生を変えてしまったのです。
ルブラン女史は、”皿洗いのマリー”に期待を持たせ、それを目標に向上をはからせたのである。つまり、与えられた評価がこの娘を変身させたのだ。
古いことわざに言うー
「犬を殺すには狂犬呼ばわりすればよい」
一度悪評が立ったら浮かばれないという意味だが、逆に好評が立てばどうなる?
  • 人を変える原則⑦ 期待をかける。

⑧激励する

子供や夫や従業員を、馬鹿だとか、能なしだとか、才能がないとか言ってののしるのは、向上心の芽を摘み取ってしまうことになる。その逆を行くのだ。大いに元気づけて、やりさえすれば容易にやれると思い込ませ、そして、相手の能力をこちらは信じているのだと知らせてやるのだ。そうすれば相手は、自分の優秀さを示そうと懸命に頑張る。
  • 人を変える原則⑧ 激励して、能力に自信を持たせる。

⑨喜んで協力させる

ナポレオン一世も同じようなことをやった。彼は、自分の制定したレジョン・ドヌール勲章を千五百個もばらまいたり、十八人の大将に”元帥”の称号を与えたり、自分の軍隊のことを”大陸軍”と呼んだりした。歴戦の勇士を”玩具”でだましたと非難されると、彼は答えた。
「人間は玩具に支配される」
人を変える必要が生じた場合、次の事項を考えてみるべきだ。

一、誠実であれ。守れない約束はするな。自分の利益は忘れ、相手の利益だけを考えよ。
二、相手に期待する協力は何か、明確に把握せよ。
三、相手の身になれ。相手の真の望みは何か?
四、あなたに協力すれな相手にどんな利益があるか?
五、望みどおりの利益を相手に与えよ。
六、人に物を頼む場合、その頼みが相手の利益にもなると気づくように話せ。

これで、必ず相手から良い反応が期待できると考えるのは、やや単純すぎる。だが、少なくともこの原則を応用しなかった場合にくらべると、相手を変える可能性は高くなる。
  • 人を変える原則⑨ 喜んで協力させる。