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企業内人材育成入門

企業内人材育成入門
中原 淳

第一章 学習のメカニズム 人はどこまで学べるのか

学び方にもいろいろある

行動主義 - 簡単なものから難しい問題へ、問題はスモールステップで構成されていなければならない。回答が出たら、即時に「フィードバック」を返すことで、「刺激と反応の組み合わせ」がアタマの中に構成される。
認知主義 - 人間をコンピュータにたとえて、人間の知的な振る舞いの詳細を明らかにしようとする考え方
状況主義 - 人間が「知的作業」を行う際に、他者との強調や道具の使用により遂行していくことに焦点を当てており、例えばOJTはこの考え方にもとづいて実施される

講義は忘れ去られる運命にある!?

一般に、人間の頭のなかの情報処理は「感覚登録器」「短期記憶」「長期記憶」の3つが連携して達成されていると言われている。

ミラーらは、人間が一度に記憶できるのは「7±2チャンク」であることを実験により明らかにした。

短期記憶にある情報を長期記憶に移行するためには、記憶を行う際に付加的な情報をつける「精緻化」のためのリハーサルなどの作業が必要になる。

これから記憶しようとするものの全体像(枠組み)である「先行オーガナイザー」を学習者があらかじめ把握していれば、その後に続く内容は、より意味のあるものとして記憶される可能性が高くなる。

協調学習は仲良しゲームじゃない!?

相互教授 − ある文章課題について学習者が交互に先生と生徒役になり、要約したり、質問したり、不明瞭な部分を明確にするよう促したり、予測したりするなどの役割を受け持ち、その役割のもとに交互に対話を繰り返し、理解を相互に推進させることを目的とした学習法
ジグソーメソッド − 各学習者がまったく異なる領域の知識をそれぞれに学び、それを互いに教えあい、統合するという学習方法

オトナの学び方

Learners are Practical - 大人の学習者は実利的である
Learners needs Motivation − 大人の学習者は動機を必要とする
Learners are Autonomous − 大人の学習者は自律的である
Learners needs Relevancy - 大人の学習者は関連性を必要とする
Learners are Goal-oriented - 大人の学習者は目的指向性が高い
Learners has life Experience - 大人の学習者には豊富な人生経験がある

物語を通して学ぶ

「論理・科学的様式」とは、普遍的な心理性と論理的一貫性を求め、簡潔な分析・理路整然とした仮設を導く思考様式である。一方、「物語様式」とは、「もっともらしさ(迫真性)」を求め、人間の意図や行為、人間の体験する苦境やドラマを含む出来事の変転を取り扱う思考形式のことである。

誰もがはじめは初学者だったーー熟達化

「ある領域の仕事ができるようになっていくこと」・・・これは、認知心理学、認知科学においては「熟達化」研究と言われる領域で研究されている。熟達化とは、ある領域での長期の経験に基づいて、まとまりのある知識・技能を習得し、有能さを獲得していくプロセスである。
熟達者には二つのタイプがある。定型化熟達者(routine expert)と適応的熟達者(adaptive expert)である。定形型熟達者とは「決まった手続きを、早く、正確に、自動的に行える人のこと」を指す。一方、適応的熟達者とは「変化しうる状況のなかで、一定の手続きがない課題に対して、柔軟に、確実に対処できる人のこと」を指す。職種によって、必要とされる熟達者のタイプは異なっている。

ある領域に熟達するためには、一般に長期にわたって「注意を必要とする練習(deliberate practice)」がどうしても必要だ。ただ単に意味のわからないことを繰り返すだけではダメである。注意を傾け、熱心に繰り返し、チャレンジしなければならない。

熟達研究が明らかにしたもう一つの知見としては、「初学者は熟達者の仕事を観察しているだけでは一人前にはなれない」というものがある。なぜなら初学者は、熟達者の仕事の「どこに注目すればよいか」がわからないからである。ただ見ているだけでは、熟達者にはなれない。

認知的徒弟制とは、①モデリング、②コーチング、③スキャフォルディング、④フェイディングという4つの支援のあり方を通じて、人を一人前にする学習モデルである。
まず①のモデリングでは、熟達者が模範を示し、学習者はそれを見て真似ることを行う。②コーチングでは、熟達者が手取り足取り学習者を指導し、助言する。③スキャフォルディングでは、自分でできるところは学習者に独力でやらせてみて、できないところだけを支援する。そして、だんだんと支援を少なくしていき、学習者を自立に導くのが④フェイディングである。人間が熟達するためには、こうした外的な支援、そして支援の解除がどうしても必要になる。
誰もがはじめは初学者だった。そして初学者から熟達するのに、多くの人の支援を必要とした。しかし、それなのに、人はいったんある領域に熟達すると、「自分が一人で育った」と思いがちである。そういう人が上司を務める職場では、たとえOJTの機会がつくられたとしても、初学者がほったらかしになるという、いわゆる「放置」が横行する。

人は一人だけでは、一人前にはなれない。
そして、あなたも、一人の力で一人前になったわけではない。
人が一人前になるとき、その傍らにはかけがえのない他者がいる。

学習モデル 学び方で効果は変わる

教育と学習は違うのか

近年、人材開発の分野において、レイヴとウェンガーに代表される状況論的アプローチが、注目を集めている。その特徴の一つは、従来あまり意識されることのなかった「学習カリキュラム」と「教育カリキュラム」の違いを明確化している点にある。

教育とはあくまでも”支援”であり、人材育成という活動における主体は学習者であるということだ。したがって、効果的な教育を実現するためには、学習という日常的・複合的・継続的な変化の方向と、そのプロセスがどのように進行していくかを理解したうえで、どの部分を、どのように支援するかを明確化することが重要となる。

ビジネスモデルは、ビジネスの仕組みと流れについて、関係者の共通理解を促進し、協調的な活動を実現するために役立つ。人材育成活動における学習モデルも同様の効果を期待することができる。つまり、目指すべき方向性、そのための学習プロセスの全体像、学習を誘発するための効果的な支援のあり方等々について、関係者全員が共通認識を保つためのツールが学習モデルである。

基礎から応用へと進む「学習転移モデル」