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経営戦略全史

経営戦略全史
三谷 宏治

第1章 近代マネジメントの3つの源流

テイラー

働くだけムダだと組織的怠業が蔓延し、「頑張るヤツは迷惑」という同調圧力までかかる始末。管理者はそれに対して「精進と奨励」を(叱責や解雇という形で)説くだけでした。

科学的管理法の原則 (1911)

  • 課業管理 - 作業内容やプロセスなどを知り、1日の公正な仕事量を定める
  • 作業研究 - 時間研究と動作研究からなり、熟練工の作業を未熟練工に伝える
  • 指図票制度 - 使う道具、時間、作業が標準化され、マニュアル化される
  • 段階的賃金制度 - モチベーションのために1日の課業を超えたら賃金をあげる
  • 職能別組織 - 計画機能と執行機能に分け、それぞれに専門部署を置いた
産業が拡大し、若い未熟練工が大量に働くようになったこの時代、人々は公正な条件の下で、より高い賃金を求めていました。一方、経営者たちは生産量の拡大を急ぎ、その効率化を求めていました。テイラーの科学的管理法は、こういった状況に、まことに合った管理法でした。
テイラー自身が目指したものは明確に、「労使の相互不信・対立から、相互信頼・協調への転換」であり、「生産性向上による恩恵の労使での享受」でした。若き日に大きな挫折を味わったテイラーは、工場叩き上げのキャリアの中で、本気でその夢を追いかけたのです。
「計画・管理と現場を分離して労使対立を激化させた」「人間性が欠如した、科学という名の労働強化だ」といった批判を浴びた。

フォード

フォードたちの独自の取り組みではありましたが、それはまさにテイラーの科学的管理法と同じ「作業の時間・動作分析」からの「作業の標準化・マニュアル化」でした。そしてそこにさらに「徹底した分業化」と「流れ作業」が加わります。
日給5ドルという高給は、「単純作業」という名の精神的苦痛への対価だったのです。フォードは「豊かな大衆」を生み出すとともに、社会(と自社)に対し「経済動機の限界」を突きつけることになりました。

メイヨー

実験対象となったチームの生産性は、照明を明るくしたときも上がりましたが、逆に暗くしていってもどんどん上がっていったのです。
意外な成果がすぐ現れました。面接をしただけで(内容にかかわらず)生産性が向上したのです。

労働意欲は労働条件より人間関係が決める

  • 経済的対価より、社会的欲求の充足を重視する
  • 行動は合理的でなく感情に大きく左右される
  • 公式な組織よりも非公式な組織に影響されやすい
  • 労働意欲は、客観的な職場環境の良し悪しより、職場での人間関係に左右される
これ以降、企業での生産性向上というテーマは、まことに複雑で深遠なものとなりました。コストや効率だけでなく、人の感情までをも扱わなくてはならなくなったからです。
モチベーション研究、リーダーシップ研究、カウンセリング研究、提案制度や小集団活動。これらすべては人間関係論の、そしてメイヨーの子どもたちなのです。

フェイヨル

企業における必要不可欠な活動

  • 技術活動 ‐ 開発、生産、成形、加工
  • 商業活動 - 購買、販売、交換
  • 財務活動 - 資本の調達と運用
  • 保全活動 - 資産と従業員の保護
  • 会計活動 - 棚卸、バランスシート、コスト計算、統計
  • 経営活動 - 計画、組織化、指令、調整、統制

経営管理プロセス POCCC

  • 計画 - 将来予測や経営資源を踏まえて活動計画を立てる
  • 組織化 - 仕事に合った組織をつくり、ヒトモノカネを提供する
  • 指令 - 従業員の状況に精通し生産最大化を図る
  • 調整 - 諸活動間のバランスとタイミングをとる
  • 統制 - フィードバックによりエラーを減じ、諸活動が計画通り遂行されるようにする
今でもPDSサイクルやPDCAサイクルとして、大いに用いられています。
規則を守りつつも、思いやりある配慮をしてこそ企業は統治できるというのが、経営者としての彼の学びでした。

第2章 近代マネジメントの創世

バーナード

アメリカ株式市場での株価急落に端を発した信用縮小は、あっという間に世界を巻き込み、世界恐慌と呼ばれる経済崩壊を引き起こしました。
大きな外部環境変化に対して、経営者がどういった方向を打ち出し、どう対処するかで、企業の命運が決まった10年でもありました。
そう、それこそがフェイヨルの考えた「計画」であり、「経営戦略」だったのです。
彼は企業体を単なる組織ではなくシステムとして定義しました。そしてその成立要件として「共通の目的(経営戦略)」「貢献意欲」「コミュニケーション」の3つを挙げました。
自らの組織(システム)に「共通の目的(経営戦略)」を与えるのは経営者の役割なのだ、という考え方自体が当時、画期的なものでした。

ドラッカー

GMが採用していた事業部制の素晴らしさがわかります。大企業を管理する分権経営の手法として見事でした。世界中の大企業が争って、GMの模倣をしていた時代でした。

企業経営の3側面

  • 顧客の創造 - 企業は顧客に価値を創造するためにある
  • 人間的機関 - 企業はヒトを生産的な存在とするためにある
  • 社会的機関 - 企業は社会やコミュニティの公益をなすためにある
有用なコンセプトをつくり、まとめ、伝えることこそがドラッカーのミッションだったのです。その実現は、われわれの仕事。彼の主張に耳を傾け、選び、そして実行していきましょう。

アンゾフ

経営とは企業内の管理を意味していました。そこにアンゾフは軍事用語である「戦略」を使って「市場における競争」という概念を持ち込んだのです。
経営戦略を「現在と未来をつなぐ方針だ」としました。これは「ギャップ分析」としても知られ、今でもあらゆる場面で使われている考え方でしょう。

成功する多角化の4要素

  • 製品・市場分野と自社能力の明確化 - 企業がどの事業や製品に力を入れているのかを正しく理解する
  • 競争環境の特性理解 - 競争を優位に進めるには競争環境がどういった性質を持つのかを理解しなくてはいけない
  • シナジーの追求 - 多角化の際、既存事業と「結びつけると効果効率が上がる」相乗効果が必要
  • 成長のベクトルの決定 - 既存ビジネスとのシナジーからリスクを判断し成長の方向付けを考える

アンゾフ・マトリクス (1957)

既存製品 新規製品
既存のミッション 市場浸透戦略 製品開発戦略
新規のミッション 市場開拓戦略 多角化戦略

戦略経営論 (1979)

  • 外部環境への順応だけでなく内部要素の重視
  • 戦略作成だけでなく実行とコントロールの重視
  • 社外環境のハード面(技術・経済など)だけでなく社会・政治面の重視 そして何より外部環境の「乱気流度合い」に合わせて、企業の戦略や組織は「同じレベルで」変わらねばならない

チャンドラー

  • 事業戦略と組織戦略は深く関わり「事業→組織」も「組織→事業」もある
  • 組織は変えにくいので事業戦略が先導しがち
でもチャンドラーの業績で世に知られたのは「組織は戦略に従う」というキャッチフレーズと「事業部制の教科書」でした。

アンドルーズ

SWOT分析をしたからといって、機械的に企業戦略が決まるわけではまったくありません。なにせSWOT分析はある意味、ただの整理図なのですから。
アンドルーズ自身もそんなことは意図していませんでした。むしろその逆です。彼は、企業戦略はある種のアートだと考えていたのです。

SWOTマトリクス (1965)

目標達成にポジティブ 目標達成にネガティブ
内部要因 強み 弱み
外部要因 機会 脅威

TOWSマトリクス ワインツ (1982)

内部の強み 内部の弱み
外部機会 積極攻勢 弱点強化
外部脅威 差別化 防衛撤退

コトラー

彼がまず目指したのは「マーケティングの体系化」でした。

戦略的マーケティング・プロセス

  • 調査
  • セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング - 市場を自分が有利なように分割し、標的とする市場を決定し、競合に対してどんな差をつけるのかを決めること
  • マーケティング・ミックス - STPを具体化させる段階、4Pを元に考える場合が多い
  • 実施
  • 管理

第3章 ポジショニング派の大発展

ヘンダーソン

「学習曲線から得られる利益」(1964)という論文にはこうありました。
「航空機製造にかかる1機あたりの労働投入量は、製造機数が倍になる度に2割減少する」
クラークソンたちはこれを製造・販売にかかる全コストに拡張し、累積生産量を経験量と呼びました。累積の経験料が倍になると、コストが一定割合ずつ減少していく。両対数グラフで書くときれいな直線になる「__経験曲線__」の誕生です。
持続可能な成長の方程式 ゼーコン
SGR = D/E・(R-i)・p+R・p
「事業に自身があるなら借金を増やせ!」
躍進する日本企業たちは、単に市場シェアをダンピングによって奪っているのではありませんでした。低価格で経験量を増やしてコストを下げ、借入金は増やすが配当は抑えて、理にかなった「持続可能な高成長」を遂げていたのでした。

成長・シェアマトリクス (1969)

相対シェア高い 相対シェア低い
市場成長率高い スター 問題児
市場成長率低い 金のなる木 負け犬

BCGは戦略経営に「時間」「競争」「資源配分」を持ち込んだ

  • 「時間」将来を予測できた - 経験曲線、持続可能な成長方程式
  • 「競争」競争力や競争状態を分析できた - 経験曲線、PPM
  • 「資源配分」事業間の資源配分ができた - PPM

ポーター

5力フレームワーク (1975)

  • 競争戦略を策定する際、もっとも重要なのは企業をその環境との関係でとらえることである
  • その環境として大切なのは、その企業がいる業界の定義とその構造
  • 業界構造は自社にかかる圧力として理解でき、それには「既存競合」「買い手」「供給者」「新規参入者」「代替品」の5種類がある
  • その中でもっとも強い力が、決め手(=競争の最重要要因)となる
ポーターは「ポジショニング」を重視しました。経営戦略の目的は企業が収益を上げることにあり、そのためには「儲けられる市場」を選んで、かつ競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなに努力してもムダだと。この2つが、ポジショニングです。

戦略3類型 (1975)

競争優位の源泉:コスト 競争優位の源泉:差別化
対象市場:広い コスト・リーダーシップ 差別化
対象市場:狭い 集中 集中
究極自分たちは何で戦うのか、どんなポジションを目指すのかを明らかにせよ

バリューチェーン (1985)

  • 主活動 - 購買物流、製造オペレーション、出荷物流、マーケティングと販売、サービス
  • 支援活動 - 全般管理、人的資源管理、技術開発、調達活動
彼はここではじめて「ポジショニング」ではなく、企業の内部に目を向けたのです。
そのポジショニングを維持するための「儲けるケイパビリティ」が必要だと気がついたのです。

第4章 ケイパビリティ派の群雄割拠

ホンダ

「ホンダは世界の自動車産業に参入すべきか」
ルメルトは、「イエス」と回答した者には落第点をつけました。なぜなら、

* すでに市場は飽和状態であった
* 優れた競争相手が、すでに日米欧にいた
* ホンダは、自動車に関する経験が皆無に等しかった
* ホンダは、自動車の流通チャネルを持っていなかった

からです。ビッグ3には規模でまだ数倍の差があったのだから当然です。
フォードの基幹工場を見学したホンダ幹部は、その圧倒的な規模に驚くとともに、その生産思想や方式の古さを感じました。ホンダはすでに、ロボットによる溶接や迅速な金型交換などによる一貫生産によって、大量生産に依存しない高生産性を実現しつつあったのです。
__ホンダは規模や経験曲線という既存の壁を見事に突き破りました。__
1984年、マッキンゼーのリチャード・パスカルが書いた「戦略の視点〜ホンダの成功の背後にある本当の物語」です。
* ホンダに当初、明示的な戦略はなかった。ホンダの「戦略」は、失敗を積み重ねる中で創発的に生まれ出てきたものだ
「戦略の視点」では、ホンダ幹部たちの試行錯誤や非分析的・無計画的行動が明らかにされています。

ピーターズ

超優良企業の8つの特質 (1982)

  • 行動の重視と迅速な意思決定
  • 顧客に密着し、顧客から学ぶ
  • イノベーションのための自主性と起業家精神
  • 人による生産性と品質の向上
  • 価値観に基づく実践
  • 基軸事業から離れない
  • 単純な組織・小さな本社
  • 自律的現場と集権的価値共有

マッキンゼーの7S (1980)

  • ハードS
    • 組織構造 - 企業がどのように組織化されているか。たとえば、組織階層と上司部下の関係はどうなっているか、次組織が職能別か、事業部制になっているかなど。
    • システム - 管理システムや情報システムなどの仕組み、管理手続きがどうなっているか。たとえば給与制度、インセンティブ制度、業績評価システム、資源配分システム、経営管理システムなど
    • 戦略 - 競争優位の源泉は何か、戦略の優先課題は何か、どの分野にどのように経営資源を配分するかなどの戦略。
  • ソフトS
    • スキル - 社員や企業が持っている特定の能力。おこなっているビジネスに重要で、しかも競合他社にないスキルがあれば、競争優位を確立することができる。
    • 人材 - どのようなリーダーシップがとられているか、採用と人材育成の方法はどのようになっているか、どのような人材が何人いるかなど。
    • スタイル - 組織の文化や経営スタイル
    • 共有価値 - 会社のよりどころとなる経営理念や価値観が浸透しているか。
超優良企業では、戦略や指示でなく「価値観の共有によるマネジメント」が行われているのだとピーターズたちは主張しました。戦略や組織、賃金・人事制度というハードなものに基づいたマネジメントではなく、企業文化という非常にソフトなものでマネジメントが行われている企業の方が、財務面でも優れているというのはとても面白い結論です。
リチャード・パスカルは、「エクセレント・カンパニー」出版後15年も経ってから「43社中、半分が5年でダメになり、今では5社しか超優良とはいえない」と自著で分析して見せるほどでした。

ベンチマーキング

ゼロックスの企業革新

  • TQM - 経営戦略から品質目標、顧客満足度目標まで落とし込む
  • ベンチマーキング - 他部署、他企業のベストプラクティスから目標やプロセスを学ぶ

ベンチマーキングのタイプ

  • 内部BM - 富士ゼロックスとの比較
  • 外部BM - 競合製品のリバースエンジニアリング、競合の工場等のプロセス調査
  • 機能BM - 倉庫業務をLLビーンに学ぶ、請求業務をアメリカン・エクスプレスに学ぶ
  • 一般プロセスBM - 地上作業をインディ500に学ぶ

ストーク

タイムベース戦略 (1988)

  • 付加価値を上げるには、顧客の要望から対応までの時間を短縮する
  • コストを下げるには、あらゆるプロセスにかかる時間を短くする
トヨタやホンダはすでに、フォードやGMの半分の時間で新車を開発する研究開発能力と、数万種類にもわたる商品を低コストで素早く納品する生産能力を身につけていました。
顧客に、より新しく多様で安いものを素早く提供するための戦略。それがタイムベース戦略でした。
付加価値の向上と、コストの低下は、ポーターの唱えたように二律背反のものではなく、時間短縮によって、同時に実現できるものだったのです。

ハメル

コア・コンピタンス経営 (1994)

  • 企業が収益を生む源泉は、事業のポジショニングにも、業務の効率性にもない
  • その中間に位置する「コンピタンス」が大切であり、その中でも競争力やニーズ対応力の素になっているものが「コア・コンピタンス」

コア・コンピタンスの例

  • ホンダはエンジン技術がコア・コンピタンス - これを軸にバイク、自動車から芝刈り機、除雪機にまで展開した
  • シャープは液晶技術がコア・コンピタンス - これを強みにして液晶ディスプレイ、家庭用ビデオカメラ、PDA、薄型テレビと展開した
  • フェデラル・エクスプレスは荷物の所在追跡能力がコア・コンピタンス - それが物流企業としての競争力の源泉。バーコード技術などはその構成要素に過ぎない

コア・コンピタンス

  • ケイパビリティが競争相手にマネされにくい
  • ケイパビリティが顧客価値を創出できる
  • ケイパビリティが他事業への展開力がある
業界分析が戦略の要などというのは神話にすぎない!まずは自社と未来の競合相手をよく見比べて、自社のコア・コンピタンスを見極めよ。その上で、それが効きそうな、未来の顧客・市場・サービスを見つけだして自ら市場を開拓せよ。
もちろんここで簡単でなかったのは10年、いや5年先の未来を見通すことでした。

フォスター

イノベーション シュンペーター (1912)

  • イノベーションの非連続性 - イノベーションは大きな「軌道の変更」だけでなく「担当者の変更」を伴う。鉄道の建設者は郵便馬車の事業者ではなかった。
  • イノベーションの類型化 - イノベーションには5つのタイプがある。いずれも技術革新に頼るものではなく「業界では未知であった」ことで十分。
    • 新しい財貨、新しい品質レベルの財貨の生産
    • 新しい生産方法
    • 新しい販路・市場の開拓
    • 原料・半製品の新しい供給源の獲得
    • 新しい組織の実現
  • 金融機能の重要性 - イノベーションのためには大きな投資が必要で、それを銀行が貸し出し、イノベーションの普及後は回収するので景気が循環する。
  • 企業家の役割 - イノベーションを担うのは一般的な経営者ではなく、企業家(起業家を含むアントレプレナー)である。
フォスターは「2重のS字曲線」でシュンペーターの言う「イノベーションの非連続性」を示しました。研究成果は「イノベーション:限界突破の経営戦略」として1986年にまとめられ、大きな反響を呼びました。
「担当者の変更」を防ぐ手立てはあるのでしょうか。フォスターは「守りつつ攻めよ」と言いました。旧いイノベーションを守って儲けつつ、次の新しいイノベーションに向けて積極的に投資せよ、そのためには対話・観察・熟考の技術を組織として上げよ、と。

スティーブンソン

「注意し給え諸君。今この世の中を揺り動かしているのは、決して学識ゆたかな学者ではないのだ。かえって、何も知らない連中の方が、革新の騎手たりえているのだ」
もし、シュンペーターの言うとおり、イノベーションが世界を発展させ、そしてそのとき「担当者の変更」が必然であるならば、考えるべきは既存の企業をどうこうする「経営戦略」ではなく、新しいイノベーションと組織を生み出すための「起業戦略」なのでしょう。
そしてそれはスタート時に必ず「アントレプレナー」を必要とします。
スティーブンソンはアントレプレナーシップを「今自分が握っている資源を超えて、機会を追求すること」と定義した。

アントレプレナー論 (1995)

  • 戦略の立て方 - 今の資源に囚われず機会を追求する
  • 機会への対応 - 長期に徐々にでなく素早く対応する
  • 経営資源 - 所有するのでなく必要なだけ外から調達する
  • 組織構造 - ヒエラルキー型でなくフラットに。インフォーマルなネットワークで多重に結ぶ
  • 報酬システム - 個人でなくチーム単位で。固定式でなく設けに応じて配分する
要は「起業で成功するには、戦略をじっくり立てるのではなく、外部から来る機会に素早く対応し続けよ」ということです。

センゲ

学習する組織 (1990)

  • 個々人が旧来の思考方法(メンタルモデル)をやめて
  • 他人に対してオープンになること(自己マスタリー)を学び
  • 会社や社会の実際のありよう(システム思考)を理解し
  • 全員が納得できる方向性(共有ビジョン)をつくり
  • そのビジョン達成のために協力する(チーム学習)
新しいコンセプトや用語が山ほどあり、大抵の読者は即座に挫折します。
起業の競争優位は、こういった個人と集団の両方の継続的学習からしか生まれ得ないとセンゲは主張しました。
「世界は相互のつながりをより深め、ビジネスはより複雑で動的になっている。今や、組織のために学習する人がひとりいれば十分という時代ではない」

第5章 ポジショニングとケイパビリティの統合と整合

ポーター

JIT方式や、タイムベース戦略を生んだ日本では、すべての企業が「時間」や効率化・多品種化に向かって突入していきました。商品開発サイクルは短くなり、品種は激増し、価格は下落を続けました。そのケイパビリティ競争の行き着く果てに利益はなく、企業プレイヤーみなが高効率低収益の罠に陥ってました。
「持続的な競争優位のためには、ポジショニングよりケイパビリティだ」としてきたケイパビリティ派の土台が大きく揺らいだのです。
「ケイパビリティ戦略など、戦略ではなくただの業務効率化だ」「その見分けがつかないから、みな作り話に騙されていたのだ」

ポーターはわざわざ囲み記事をつくって「日本企業に戦略が存在することは滅多にない」と主張します。

  • ソニー、キャノンらは例外で、ほとんどの日本企業は互いに模倣し合っているだけ
  • その状態から抜け出すには、日本企業は「戦略」を学ばねばならない
  • しかし、悪名高きまでにコンセンサス重視の日本企業では、戦略というものが求める「厳しい選択」は行えまい
  • かつ、日本企業は顧客満足を重視するあまり、すべての顧客にその求めるすべての商品・サービスを提供しようとして、自社のポジショニングを失ってしまう
「儲けられる市場」にいたからといって、企業収益はよくならなかった、という研究発表がありました。対して、「ケイパビリティ」に優れていたのに、数年でダメになる企業が多い、という研究発表がありました。
経営戦略論では果たしてポジショニングが先なのでしょうか?それともケイパビリティが先なのでしょうか?

ミンツバーグ

「戦略サファリ」(1998)で彼らはそれを「コンフィギュレーション」と呼び、たとえば企業の発展段階(発展→安定→適応→模索→革命)に応じて、戦略や組織のあり方やその組み合わせ方は変わる、と論じました。
ドラッカーが「断絶の時代」(1969)で予言したとおり、不連続な「乱気流」の時代になること、それを乗り切るには、それに合せてポジショニングとケイパビリティを整合させなくてはいけないことを。
「組織は戦略に従う」のは、組織が戦略ほど急に変われないからだ。だから、必ず戦略は失敗する。そうならないためには、組織(ケイパビリティ)を先に変えてしまおう、というわけです。
環境の乱気流が「創造的」になろうとしているなら、それを待たずに組織や企業文化、コンピタンスのあり方を創造的(たとえば社内起業家が育つような採用・人事体系)にしようと、アンゾフは言いました。

キムとモボルニュ

競合がひしめき、戦いの血で染まった「レッド・オーシャン」でなく、新しい価値とコストをもとにした競争のない「ブルー・オーシャン」を創り出そう!と説くこのコンセプトは、ポーターが主張し続けた「付加価値かコストかのトレードオフ」を否定するものでもありました。
よい戦略とは、新しい市場コンセプトの案出とそれを実現するケイパビリティの創造(=バリューイノベーション)である
任天堂は実際に、DS(2004)、Wii(2006)の開発時にこれらを用い、見事に「新しい顧客(女性や大人)」に対して、新しい付加価値を低コストで提供し、圧倒的な市場創造に成功しました。それまでの、「少年向け」「ハイスペック」「高コスト」のスパイラルから、ついに抜け出したのです。
ブルー・オーシャンは、成功すればするほどすぐに競合の参入を招き、レッド・オーシャンになります。ブルー・オーシャン戦略が求める「新市場の探索」と「ポジショニングとケイパビリティの創造と融合」は永遠なのです。

ベゾス

「物流センターへの投資など止めろ」「われわれはネットビジネスに投資しているのであって、物流企業にしているのではない」「もっと桁違いの成長を!」
2000年4月のネットバブル崩壊もあり、アマゾンの株価は下がり続け、2001年4月には8ドルとなりました。最盛期の14分の1です。
しかし、ベゾスは意に介しませんでした。巨大物流センターが、アマゾンに圧倒的な「持続的な競争力」を与えてくれるとわかっていたからです。
「クイック・デリバリー」が、顧客にとって価値であるならば、それこそバリュー・イノベーションとなるはずです。敵は、いません。
唯一無二のプレイヤーであり続けるための戦いでもありました。本から他のカテゴリーへの拡大、書籍の電子化の推進、クラウドサービスへの進出。そして、それらを実現するためのさらなる物流・ITへの巨額の投資・・・。
アマゾンのブルー・オーシャン戦略による永遠の戦いに、終わりはないのです。

第6章 21世紀の経営環境と戦略諸論

企業が消えていく

せっかく作り上げた優位性が持続しない、どころの騒ぎでなく、多くのスター企業や老舗企業たちが21世紀に入って破綻、もしくは吸収されていきました。
世界中が安定的な成長を求めて努力する中、それをあざ笑うかのように、政治や金融の大波が企業を襲い続けました。
過去を広く振り返り、いかに既存の常識が崩れつつあるかを俯瞰した、素晴らしい作品でした。同名で出版された本は世界中でベストセラーになり、「不確実性の時代」は流行語にすらなりました。
情報は常に完全ではなく、まったく未来が予見できない状況において、人々が頼るものは「期待」だとガルブレイスは考えました。

世界の膨張

世界経済は、2003年以降、急激にその規模を拡大し、たった5年でその規模を倍近くにしました。
いったん豊かになった大衆が、昔に後戻りすることはありません。多くの経済・金融機関は、2050年に向かってさらに膨張すると見ています。
パンカジ・ゲマワットは、国ごとに見ても世界は均質化などしていない、と断じます。彼は「Why the world isn't flat」という記事で、国や地域は①文化的、②行政・政治的、③地勢的、④経済的、な距離が大きく離れていて今だ差異は大きく、ヒトもモノもカネも情報も、ほとんどはローカル内でしか動いてはいない。企業がなすべきことは、その差異にどう対応し、そこから儲けるかを考えることだ!と論じました。
世界経済は、確実に拡大してもう2度と21世紀初めの姿に戻ることはありません。しかしその膨張は、なめらかなものでは決してなく、世界のギザギザや凸凹を残したままの拡大であるのでしょう。
企業の戦場はもっと広く、そしてもっと複雑になっていくのです。

境界の崩壊

電機メーカーがコンテンツ会社を買収し、「産業」や「業界」の単位が意味をなさなくなってきました。業界コンバージェンスの時代です。
「5力分析」が分析対象にしていたのは産業や業界です。「競争戦略」の競合相手とは業界内のそれです。なのに、産業や業界、さらには競合すらが曖昧になってしまいました。

クリステンセン

イノベーションにおいては「担当者の変更」がしばしば起きます。それまでリーダーだったプレイヤーが、必ずと言っていいほど、次のイノベーションに後れを取るのです。それまでその原因は、そのイノベーション自体の性質にあると思われてきました。

クリステンセンはコンピュータ部品での研究をもとにこう結論します。

  • イノベーション自体が革命的か漸進的かは失敗に関係ない
  • 失敗するのはリーダー企業が顧客志向でありすぎるためだ
リーダー企業は必ず大切な顧客を持っています。その顧客のニーズに応えることは絶対で、懸命に「既存の技術や仕組み」を磨き、それをどんどん高めていくことに努力します。関係なさそうなものは切り捨てられます。
しかし、新しい技術や仕組みは、そこから遠くはなれたところに生まれ、急速に進化していきます。そしてある日、顧客は気がつくのです。それが自分たちにもわかっていなかったニーズを満たすものだと。
「日本企業は現状に意義を唱え、実験を行い、リスクをとるよう社員に推奨するにあたって、特有の問題に悩まされる」。だが、「幸いイノベーション能力は筋肉のようなもので、鍛え、矯正することが可能だ」。しかも「破壊的イノベーションは、チームプレーにほかならない」「リーダーが率先して、発見力を自由に発揮できる環境を整えれば、よい方向に向かうだろう」

グラットン

「ワーク・シフト」(2011)で彼女は「スキルがなければ世界中の労働者と競争する羽目になり低賃金で暮らすことになる」「単なるジェネラリストとしての中間管理職は激減する」と予測します。なのに「未来は過去の延長線上にある」と考えて、これまでのやり方を変えずにやっていけば、時間に追われ、孤独で、貧困な人生を送ることになる、と。

3つの転換(シフト)

  • できれば好きなことの中で、複数の専門性を持つ
  • 他者とネットワークをつくる。やすらぎを感じられる人間関係も含めて
  • 所得と消費による満足から脱却する。長続きしないし先進国では限界がある

第7章 最後の答え「アダプティブ戦略」

ワッツ

闇夜のドライビング戦略 (2011)

  • オープン・イノベーション - 1企業や組織の努力によらず、幅広い参加者を募って問題の解決を図る
  • ブライトスポット・アプローチ - 「よき偏差」を生み出している親に、その工夫や努力をヒアリングし、それを他の親に伝える活動
  • 実地の対照実験 - 「現場実験」つまりテスト販売や事業化テスト
過去に学ぶのではなく、今の智慧を集める。予測・推測するのではなく、実際にやってみる、が社会学からの答えなのです。

グーグル

「Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」に向けて、さまざまな新サービスを、導入(かつ撤退)し続けています。
リーダー企業こそが、新しいイノベーションに乗り遅れて、「担当の変更」が起きてしまうのだと。それを避けるためには、一見ムダな試行錯誤を、小さくいろいろやってみるしかないのです。
グーグルにはこれまで幸いなことに(大量の)お金と、試行錯誤を積極的に行うリーダーシップがありました。
選択肢を出して、つくって、試してみればいいのです。頭の硬い上司の許可を得ることも、みなで事前に合意を取ることも、顧客をムリに説得することも、必要ない!
データ民主主義のもとでの「試行錯誤型経営」がもう既に、始まっているのです。

アメリカ軍

全情報を握る司令部からの指令に従って進軍していけば楽に戦闘ができました。
この大成功がのちに、アメリカ軍を大失敗へと導くのです。
「新しい理想の軍事組織」は、ゲリラやテロに対する市街戦にも、治安維持にも向かなかったのです。
人間の行動・購買心理の面白さを示したベストセラー「人は意外に合理的」の著者でもあるティム・ハーフォードは、「アダプト思考」(2011)で、アメリカ軍のこれら現代戦での成功と失敗を分析しています。

アメリカ軍の「理想の組織」

  • 統制の取れたチーム - 志を同じくしたチームが強力にリーダーを補佐
  • 統一的大局観 - あらゆる情報を収集し、中央で戦略を立案・決定
  • 厳格な指揮命令系統 - 責任を明確にして上意下達で遵守させる
そんな厳格な指揮命令系統の下にありながら、何名かの現場指揮官たちが独自の戦略を生み出し、試行錯誤して成功例をつくり上げました。
アメリカ軍の勝利はテロリストたちの殲滅によってではなく、テロリストによる報復から自分たちを守ってくれると住民たちが確信した瞬間に訪れました。
一枚岩の「理想の組織」こそ失敗しやすい、ということを強く示しています。高度に情報家されていようといまいと、同じです。
「いつもボトムアップが正解なわけではない」と。その状況における選択肢や答えは、そのときどきで違うでしょう。最終的にはトップダウンが答えのときもあるでしょう。ただ、それらは決して遠い本国の机上では決まりません。現代戦における戦略は、現場での試行錯誤とそのフィードバックによってのみ成立するのです。

IDEOブラウン

デザイン思考の5つの循環的ステップ

  • Empathy 理解・共感
  • Define 問題定義
  • Ideate アイデア出し
  • Prototype 試作
  • Test テスト
IDEOのトム・ケリーは言います。「荒削りな試作品をどんどん作る、が社風になったとき、見違えるほど多くのアイデアが具体化するようになる」と。
アイデアは頭の中でも、机上でも、曖昧なままです。形にすることで、その概念が具現化するのです。

ブランクとリース

顧客開発モデル (2005)

  • 顧客発見 - 聴いて発見
  • 顧客実証 - 売って検証 (ダメならピボット)
  • 顧客開拓 - リーチを検証
  • 組織構築 - 本格拡大
ブランクは「スタートアップにチームは2つだけでいい。商品開発と顧客開発だ。マーケティングも営業も事業開発もまずは要らない」と言い切ります。
リースはさらに、ブランクの考えを拡張して、トヨタが作り上げた「リーン生産方式」の考え方をスタートアップ・マネジメントに導入します。「ムダなものをつくらない」がその中核です。
リースは多くの失敗経験を通じて学んでいました。「やってみよう」精神が会社を潰すのだと。
エンジニアはとにかく、わからないならやってみよう、と闇雲にプログラムを書き続けます。「どんなにそれが速かろうが、その成果が検証できないならムダだ」と彼は考えました。
  • 顧客に価値を提供できないものはすべてムダ
  • それが検証できないもの、学びにつながらないものはすべてムダ

リーン・スタートアップ

  • 戦略は軸足を変えながら改善し続け、固まるまでは大勝負をしない
  • 作業は提供価値の向上とアイデアの検証につながることだけに絞る
  • これらの改善・検証を、MVPを使って超高速で行う

BCGリーヴス

事業環境の5分類 (2015)

  • 環境があまりに苛酷なら「サバイバル戦略」
  • 環境が予測可能でも支配できないなら「クラシカル戦略」
  • 環境が予測可能で支配できるなら「ビジョナリー戦略」
  • 環境が予測困難でも支配できるなら「シェイピング戦略」
  • 環境が予測困難で支配もできないなら「アダプティブ戦略」
アダプティブ戦略は、予測しがたい事業環境変化に迅速に対応することを「競争力」の源泉とする戦略です。
アダプティブ戦略実行のために必要なケイパビリティが、いくつか挙げられていますが、その1つが「実験する能力」です。
リーヴスがアダプティブ戦略の「実験する能力」の項で最後に強調しているのは「失敗への対応」です。試行錯誤には必ず失敗が伴います。失敗を受容し、かつ、そこから学ぶ能力がなければ、試行錯誤型経営でなく、ただの「錯誤」になってしまいます。
アダプティブ戦略は、名前はアダプティブですが、ただ順応とか適応という意味ではありません。企業の「進化」を促す言葉なのです。進化の反意語は退化ではなく停滞です。そして進化は一代で起こることではなく、変異と淘汰によって起こる非連続でダイナミックな適応なのです。