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FEARLESS CHANGE

Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン
Mary Lynn Manns, Linda Rising

推薦文

新しいアイデアを組織に導入することは依然として難しい課題だ。私たちはマイクロソフト社の内部で、技術の効果的な活用を通じてビジネス価値を生み出すことの重要性を説き、広めている。私たちはこのアイデアに情熱を持っている。しかし、マイクロソフトという会社では、たくさんの頭のよい人々が、たくさんの新しいアイデアで頭の中がいっぱいになっている。人々の注意をこちらに惹きつけることは、常に難しい課題だ。現代のような競争的な経済環境のもと、組織が素早く動き続けるなかで人々を活動に定着させつづけることはさらに難しい。

序文

この連中の微温的態度は、一つには(中略)敵対者への恐怖心が働き、もう一つには、人間の猜疑心、つまり、確かな経験を積むまでには、新しいことを本気で信じようとしない気持ちからくる。

優れたチェンジリーダーなら、この本のテクニックを読んで「もうやってるよ!」と言うかもしれない。そうしたコメントは、私たちの仕事への賛辞だと受け取ろう。なぜなら、私たちのゴールはすでに試みられた本当のプラクティスを見つけることであり、うまくいくかわからないアイデアを寄せ集めることではないからだ。

謝辞

パターン・ランゲージの創造はコミュニティによって行われなければならない。クリストファー・アレグザンダーはこう言った。
このランゲージを読み、利用する多くの人々は、ここに含まれるパタンを改善しようとするだろう。彼ら自身のエネルギーを注ぎ込んで、パタンをもっと真実に、変わらない本質を捉えたものにするだろう。そして、私たちは望む。この、時間の経過とともにゆっくりと発見され、だんだんと真実に近づいてきたパタンが、共通言語の仲間に入り、私たち全員が共有するものになることを。

日本語版に寄せて

これまでの人生のほとんどの時間、私が関心をもった問題は、技術的に解決できるものでした。人生も後半になってから、とりわけ難しい問題の解決策こそ、そこにいる人々と、人同士の相互作用にあるのだと学んだのです。

「アイデアのすばらしさ」さえあれば、それを受け入れるべき人々を説得できえうろ勘違いしてしまうのです。残念ながら、人は「合理的な意思決定者」ではありません。

第一章 組織と変化

新たな可能性に惹きつけられ、そのアイデアの優位性がはっきりと見えている人ほど、勘違いを犯しやすい。「アイデアの優位性を論理的に説明すれば誰にでもわかってもらえる」あなたには、こうした間違った仮説をたて、あとになってからもっとやるべきことがあったと気づいた経験が、何度あるだろう?

トップダウンの変化の特徴は、急速な変化と、必要に迫られた問題だけを扱うことだ。いっぽうボトムアップの変化はより漸進的だが、抵抗に対してより効果的に対応できる。ボトムアップの特徴は、参加型であり、なにが起きているのかを人々に伝え続けるため、不確実性と抵抗が最小になることだ。

多くの従業員にとって、改革に参加する機会がほとんどなかったため、大多数が懐疑的になり、抵抗するようになってしまった。表立って彼女の方針を攻撃する人はいなかったが、表面上は彼女が設定した改革のゴールを達成しているように見せかけつつ、実際はそれまでと変わらない仕事を続けていた。この抵抗活動はとても巧妙で、広く浸透していた。古い中国のことわざに「階段の上で声はするが、誰も降りてこない」というものがある。各階層を巻き込まず、トップ主導で改革すればあっという間に加熱するが、やがて失敗して、新たな「失敗のレシピ」になるケースも多い。

残念ながら、効率化や品質改善の新しい方法を学ぶ時間など、なかなか取れないのがふつうだ。人気のある学習法も、必ず新しいアクティビティに時間を割く現実には、どれだけ強い熱意があっても、先行投資なくして、変化は起こらない。どんなに保守的な文化の中でも小さな変化は起こりうる。しかし、そのスピードは遅く、変化を待つ忍耐力は、より多く必要となる。

あなたのするべきことは、森全体をまんべんなく育てることではなく、安全な場所を選んで苗を植え、育てていくことである。木々が十分に成熟すれば、種をばらまき、いずれは森が肥沃な大地をすべて覆うことになる。それでもなお、岩だらけの不毛な大地は残るだろう。

「人は変化に抵抗するわけではなく、変化させられることに抵抗する」ということだ。自分自身でつくってもいいなら、人はより上手に変化に参加するものだ。

第二章 戦略か、パターンか

毎年、あなたはどれだけの本、記事、メモ、メール、ウェブサイトと格闘しているだろう。すべて読み切ったとしても、どれだけ覚えていられるだろう。マーカーで線を引きまくっても、世界中の付箋を使い尽くしても、あなたが必要なときに、そこに書いてある情報を思い起こせるとは限らない。

エクササイズの一つに、参加者が小さなチームをつくって、組織に新しいアイデアを導入するための計画を練るというものがある。このエクササイズの目的はプランをつくることではなく、チームがパターンからより多くの学びを得られるようにする、ということだ。この方法はすごく楽しいだけでなく、講義としてもすごく効果的なのだ。

第三章 さて、どこから始めよう

あなたは新しいやり方を聞きつけた。セミナーに参加したのかもしれないし、本を読んだり、知り合いから聞いたのかもしれない。これを組織に導入したらみんな便利なのに!と思った。さて、どこから手を付けたらいいだろう。

エヴァンジェリズム、つまりイノベーションへの信仰心などもっていなくても、職務を遂行できると考えたのだ。しかし、私たちはそうではないと発見した。情熱とか熱狂とか信条とか決意というものは、チェンジエージェントにとっての必須の要素であり、「ただ自分の仕事をこなすだけ」という態度では成功が難しいのだ。

映画「The Journey」のなかで、こう言っている。「私の成功は、熱意を失わず、失敗から次の失敗へと動き続けてきた結果から、得られたものだ」そう、前に進んだことを祝おう!

あなたには、旅を始める準備ができている実感をもってほしい。あなたは熱い思いを抱いている(エバンジェリスト)が、夢を抱くだけでは十分でないと知っている。あなたは周囲の状況を確かめ(予備調査)、自らの経験に学び(ふりかえりの時間)、小さな勝利を祝い(小さな成功)、ゆっくりと全身していく(ステップバイステップ)。この基礎ができたら、維持し続けていかなければならない。さあ、あなたははじめの一歩を踏み出す準備ができた。次章では、リソースを消費せず、価値ある時間をたくさんとらなくても行えるパターンを紹介していく。この時点では、あなたはまだボランティアなのだから。

第四章 次にすべきことは、なに?

あなたはスタートを切って、走り始めた。もうまわりの人からそのアイデアのエバンジェリストとして知られるようになってきた。時間とエネルギーをかけても、前に進む価値があると信じられるようになった。

人が変化に抵抗する理由はたくさんあるが、彼らの抵抗に打ち勝つ強力な方法の一つが、オーナーシップだ。人は、少しでもその現実に寄与したと思うものは、たとえ小さな貢献であったとしても、自分のものとして「認識する」ものだ。誰だって情報のインプットが欲しいし、新しいやり方を有無を言わさず強制されるより、起きていること、とりわけ自分たちへの影響について、発言の機会が欲しいものだ。

まだどうなるかわからない不確実性の高い時期には、周囲に信頼されているエキスパートに頼り、代替案のなかで私たちのアイデアが選ばれるよう支援してもらう。達人を味方につければ、それまで懐疑的だった人々も、少なくとも興味を示してくれるようになるし、こちらが伝えるべき言葉にもっと耳を傾けてくれるようになる。

協力を求める、コネクター、達人を味方に、イノベーター、感謝を伝えるは、あなた自身の多大な労力を投入しなくても、よいスタートを切れるようにしてくれる。次章では、もう少し時間はかかるが、あなたが旅を続けていけば、そのうち大きな見返りをもたらしてくれるようなパターンを紹介していこう。

第五章 ミーティングあれこれ

本章のパターンを適用していたのなら、あなたはとても忙しかったはずだ。便乗パターンやブラウンバッグ・ミーティングパターンを使ってミーティングを開いた。もしかしたら、何か食べながらもできたかもしれないし、適切な時期にミーティングをセットできたかもしれない。おもしろそうな本や記事を手に入れたなら、種をまくパターンを使ったり、あなたのアイデアへの外部のお墨付きとして紹介できたかもしれない。まだはじめたばかりの活動の次のアクションについて語ったり、定期的な連絡のために電子フォーラムを活用しているかもしれない。本当に運が良ければ、同じような思いをもつ人々によって、もうグループのアイデンティティがつくられている。まだあなたに時間があり、変化への活動が本当に離陸するところを見たいなら、次章のパターンをちょっと見てほしい。

第六章 行動を起こそう!

トーマスエジソンもこの違いを理解していた。「成功の秘訣は、71回失敗することではなくて、72回目に初めて成功するまで粘ることだ。」ガンジーもまたこう言っている。「愚者は完璧を期待するが、賢者は学ぶ機会を探す。」

私たち皆が経験している、現代の混沌と激変のただ中においては、ゲーテの言葉はとくに正しいといえる。もしイノベーションに関心があり、チェンジエージェントの役割を行おうとしているなら、完成よりも卓越性を優先して追い求めるのがふさわしい。

エリック・ホーファーはこう言っている。「劇的な変化の時代においては、未来を継承することができるのは、常に学んでいる人だ。学ぶことをやめてしまった人は、自分はすでに存在していない世界の中でのみ生き残るすべをもっていた、ということに気付くことになる。」

カール・ロジャーズはこう言っている。「自らの経験に基づき、自分で発見した(または自分で正しいと判断した)ことだけが、行動に大きな影響を与える。」これはとくに、学び続けている大人たちにとって真実だ。

第七章 すべては人との関わり

リー・アイアコッカはこう述懐する。「人に話すときは、相手の言葉で話すことが重要だ。それがうまくできたとき、彼らはこう言うだろう。おお、彼は私が考えたこととまったく同じことを言っている。そしてあなたをリスペクトし、死ぬまであなたに付き従ってくれる。彼らがあなたに従うのは、あなたが不可思議なリーダーシップを発揮しているからではない。あなたが彼らに従っているからなのだ。」

強力なパターンをもってしても、ボランティア状態から抜け出すのは難しいだろう。本当にインパクトを与えるには、変革のための取り組みを職務の一部にしなければいけない。

第八章 今あなたは専任になった!

「私を正式な推進担当者にするよう上司を説得するには、どうしたらいいですか?」その答えは、もちろん、パターンだ!エバンジェリストとして自分の時間を捧げることから始めよう。

経営層の役割について、著名な演説家であり作家のルー・ローソンシーがこう説明している。「リーダーにとって最重要かつ不可欠の仕事は、チームを動機づけ、気づきを与え、エネルギーと勇気を引き出して、チームのもっとも大事なリソースである、よりよい方法を見いだす無限の創造性を発揮させることだ」

第九章 大衆を説得する

必要に応じて変化するためには、組織が機敏(アジャイル)でなくてはならない、と私たちは知っている。一方で、言うは易く行うは難し、であることも知っている。

最近の研究で、物乞いを装った学生はただ単にお金を要求した場合、44%の確率で小さい額を貰えることを発見した。ちょうど25セントの効果を要求した場合、64%の確率でもらえた。しかしながら、37セントという半端な額を要求した場合は75%の確率でもらうことができた。普通ではない要求をすると、より希望を叶えられる可能性が高かった。

第十一章 続けていくために

すでにGoogleは世界最大の検索エンジンの地位を手に入れていたのに。「もうやることは残っていないんじゃないの?」という質問をしたところ、創業者の一人は、うまくいったアイデアも継続して注目を集められなければ生き残れないのです、と答えてくれた。

第十二章 抵抗と付き合う

いずれは、イノベーションへの情熱があるとはいえない人たちにぶつかることになる。強硬な人たちもいるが、ほとんどは単にためらっている人たちだ。ふつう、そういう障害物は避けてしまうことが多いが、もっと前向きな光を当ててみていく必要がある。

ブライアン・ビローはこう書いている。「私たちが置かれている文化では、差異は排除すべきものとされている。他人との間に差異があるというのは、衝突があり、うまくいっていないという意味である。このような文化条件の下では、しばしば不審を前提とした防衛的な立場をとるようになる。」

物言う抵抗勢力よりも、物言わぬ抵抗勢力こそ、打ち勝つのが難しいことも、考えておかなければならない。