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V字回復の経営

V字回復の経営
三枝 匡

不振事業の症状50

第1章 見せかけの再建

1.組織内に危機感がない。一般に企業の経営悪化と社内の危機感は逆相関の関係である。
2.カンパニー制や執行役員制を導入したが、大した効果をあげていない。
3.経営者は、ただ危機感を煽る言葉を口にしているだけである。
4.横並びの業界心理が経営陣を支配している。
5.リスク戦略の実行能力の低い人材が、改革者として配されている。
6.経営スキルの低い経営者が、社員の意識を変えるために「意識改革をしよう」と叫んでいる。
7.多くの社員が「そと者」を心理的に区別している。
8.激しい議論は大人げないと思われている。
9.トップが自らハンズオンの経営スタイルをとっていない。
10.昔のことばかりを引き合いに出す「語り部」が多い。
11.ミドルが問題を他人のせいばかりにしている。
12.組織に「政治性」がはびこっている。
13.時間だけが経過し、会社のとり得る選択肢が次第に減少している。

第2章 組織の中で何が起きているか

14.会議の出席者がやたらと多い。
15.ミドルが機能別組織のたこつぼに潜り込んでいる。
16.プロダクトマネジャーが社内政治の「掃き溜め」にされている。
17.全部署が全商品に関与しているため、個々の商品への責任感が薄まっている。
18.「妥協的態度=決定の先延ばし=時間軸の延長=競争力低下」のパターン。
19.社内では顧客の視点や競合の話がなく、内部向きの話ばかり。
20.「負け戦」をしているという自意識がない。
21.個人として「赤字の痛み」を感じていない。責任を皆で薄め合っている。
22.商品別の全体戦略が「開発→生産→営業→顧客」の一気通貫で行われていない。
23.商品別損益がボトムラインで語られていない。
24.原価計算がたくさんの商品を丸めた形で行われている。
25.赤字の原因を個々の「現場」に遡及することができない。
26.関係会社を含めた商品別の連結損益が見えていない。
27.利益志向の管理システムが途中で切れており、組織末端では旧来の売上高志向から抜け切れていない。
28.トップも社員も表層的な数字ばかりを追いかけ、議論が現場の実体に迫っていない。
29.開発者がマーケティングや市場での勝ち負けに鈍感になっている。
30.あれもこれもと開発テーマが多すぎる。
31.開発陣が「顧客メリットの構造」「顧客の購買ロジック」を完全に把握していない。
32.社員が外部に会社の不満を垂れ流し、会社の看板を背負うことを投げ出している。
33.過去の戦略不足やふらつきのため、取引先が不信感を抱いている。
34.組織末端のあちこちに一種の被害者意識が広がっている。
35.本社の商品戦略が顧客接点まで届いていない。
36.営業活動のエネルギー配分が管理されていない。
37.「絞り」「セグメンテーション」の考え方が足りない。
38.「戦略」が個人レベルまで降りておらず、毎日の「活動管理」のシステムが甘い。
39.ラインの推進力が弱く、スタッフが強い。
40.代理症候群が広まり、組織の各レベルにミニ大将がはびこっている。
41.社員が勤勉でない。とりわけ役員やエリート層が汗を流して働かない。
42.脱ポン的に構造を変えるべきものを、個人や狭い職場の改善の話にすり替える人が多い。
43.組織に感動がない。表情がない。真実を語ることがタブーになっている。
44.社員が心を束ねるために共有すべき「攻めの戦略」が提示されていない。
45.総合的な分析力と経営コンセプトに欠けている。
46.事業全体を貫くストーリーがない。組織の各レベルで戦略が骨抜きにされている。
47.対症療法的な組織変更や人事異動が頻繁に行われ、すでに改革疲れを起こしている。
48.会社全体で戦略に関する知識技量が低く、戦略の創造性が弱い。
49.幹部の経営リテラシー(読み書き能力)が不足している。
50.狭い社内で同じ考え方が伝播し、皆が似たようなことしか言わない。社外のことに鈍感。

改革を成功へ導くための要諦50

第3章 改革の糸口となるコンセプトを探す

1.改革チームの人選は、改革の成功・失敗に決定的な影響を及ぼす。
2.組織カルチャーの変化は、必ず組織内で起きる「事件」を触媒にして進展する。
3.改革シナリオを検討する初めの段階では選択肢を規制しない。
4.人間も組織も「カオスの縁」に立たされたときに、新しい変化への適応がもっとも早く進む。
5.改革リーダーは、初めからある程度「最悪のシナリオ」を計算しておく。
6.経営行動は、厳しい「現実直視」と問題を「自分で扱える」大きさに分解することから始まる。
7.停滞している状況をその会社の「社内常識」で分類しても、脱本的解決の糸口は見えない。
8.解決策を探し出すには、社員が共有すべきコンセプト・理論・ツールをトップが示さなければならない。
9.「創って、作って、売る」をスピードよく回すことが顧客満足の本質。
10.仮説検証の手法をうまく使えば、分析やシナリオ作りの時間を大幅に短縮することができる。
11.「組織の再構築」と「戦略の見直し」はワンセットで検討することが不可欠。
12.セオリーや原則論を外部から学んで初めて、ようやく内部の問題が見えてくる。
13.事業活性化には、商売の基本サイクルを貫く「五つの連鎖」の脱本的改善が必要。

第4章 組織全体を貫くストーリーをどう組み立てるか

14.「強烈な反省論」は「改革シナリオ」の出発点であり、裏腹の関係にある。
15.スピードに関する組織カルチャーを最初にリセットしないと勝利の方程式は動き出さない。
16.改革リーダーは、社員を厳しい現実直視に追い込み、そこからのジャンプを考えさせる。
17.改革シナリオ作りでは、あらゆる選択肢についてオープンに考える権限を与える。
18.改革シナリオ発表前に起きる小さな出来事は、よほどのものでない限り相手にしない。
19.前向きに進もうとしている人々を守るのは改革リーダーの最大の責務である。
20.事業再生の道がない「悪性の赤字」は、恥も外見もなく早期に撤収すべきである。
21.計画を組む者と、それを実行する者は同じでなければならない。
22.改革先導者は「覚悟」を決め、それを人生の貴重なチャンスととらえ、ひたすら足を前に出す。
23.人々に「強烈な反省論」を迫るには、徹底的な事実・データに基づく追い込みが不可欠。
24.特定の個人や部署を責めずに、古いシステムの問題点をクールに指摘し続ける。
25.戦略マップでトップの考えを幹部に徹底する。マトリックスにするのが効果的。
26.基本に忠実な組織を「愚直」に作っていけば、会社は元気になる。
27.営業マンの頭の中をいつもスッキリさせておく。彼らの心理的集中を確保することに留意する。
28.戦略の内容よりも、トップによるしつこいフォローのほうが大きな影響を与えることが多い。
29.戦略指針を与えても、その実行をモニターするシステムがなければ戦略は「骨抜き」になる。
30.改革が「人減らし」だと受け取られてしまうと、改革に対して社員は防御的になる。

第5章 熱き心で皆を巻き込む

31.改革シナリオのプレゼンテーションは、聞き手の表情がわかる少人数を相手に行う。
32.「強烈な反省論」と「解決案」は抱き合わせで発表するのが常道。
33.改革シナリオ発表後に意図的な反対行動が現れたら、改革の修羅場に突入する可能性がある。
34.いったん改革をスタートさせたら、改革者は徹底的に意思を貫徹する。
35.「気骨の人事」なくして、改革の仕掛けはっ人々を熱く動かすところまでいけない。
36.「気骨の人事」の実現は、企業トップがその改革に本気かどうかの踏み絵になる。
37.強い経営者的人材プールを社内で作るには、組織内部の競争原理を抜本的に高める必要がある。
38.一般に経営改革では、「突撃しない古参兵」よりも、今は能力不足だが潜在性の高い「元気者」を投入すべきである。
39.力量に不安のある人材を投入しすぎると、改革のリスク総量は初めから限界を超える可能性がある。
40.「危ない橋」の中央で迫ってくる不安には、「打つべき手は全て打った」と腹をくくって自分を支えるしかない。

第6章 愚直かつ執拗に実行する

41.組織や戦略の矛盾が解決されずに順送りにされると、営業と顧客の接点にしわ寄せが現れてくる。
42.改革1年目に現れる劇的な成果の半分以上は、社員の「やる気」の高まりによるものが多い。
43.社員の「やる気」の高まりによる効果が出ている間に、「仕組みによる強さ」の構築を急ぐ。
44.社員の「頑張り」は、「仕組みによる強さ」のストーリーが明確な場合に生まれてくる。
45.早期の成功は、改革抵抗者の猜疑心を解きほぐす最大の武器になる。
46.改革を始めた後は、新しいことを手掛けるたびに新手法(具体的ツール)を埋め込んでいく。
47.突出した改革テーマに絞り込んで、ボトムまで一気に鋭く切り込む。リスクを限定する。
48.早期の成功が出たら皆で目一杯祝う。飲み屋のツケは後でなんとかする。
49.沈滞企業では競争の悔しさや痛みを感じる機会が少ない。元気な組織は感情の起伏が激しい。
50.改革や新戦略を得意になってマスコミにしゃべりすぎない。余計なことは言わない。

肥大化した機能別組織 10の欠点

1.事業責任が分かりにくい
2.損益責任が曖昧
3.「創って、作って、売る」が融和していない
4.顧客への距離感が遠い
5.少人数で意思決定ができない
6.社内コミュニケーションが悪い
7.戦略が不明
8.新商品が育ちにくい
9.社内の競争意識が低い
10.経営者的人材の育成が遅れている

改革の推進者と抵抗者のパターン

A1 過激改革型 旧体制を過激に否定し、改革論理で先行する人。
A2 実力推進型 強いリスク志向を持っているがバランス感覚があり、論理的、実務的に詰めながら改革を推進できる人。
A3 積極行動型 改革リーダーを行動的に支える人。
A4 積極思索型 改革リーダーと思想・行動を共にするが、自身がリーダーになるには不向きな性格の人。
B1 心情賛成型 心情的に改革の考え方は「正しい」と思いつつも、リスクを避けて様子見の姿勢をとる。
B2 中立型 危機感が低く、変化願望も弱い「大衆層」の社員が多く含まれる。
B3 心情抵抗型 攻撃的態度まではとらないが、改革に明確な距離を置く。
C1 確信抵抗型 改革を「正しくない」と断じる理論ばかりか、改革者を個人的に「好きになれない」という強い感情を併せ持っている。
C2 過激抵抗型 改革者と表立って対決し、場合によっては組合や法的問題にまで持ち込むなど突出行動をとる。
D1 更送淡々型 過去の自分の責任を認識し、潔く淡々と公認への橋渡しを行って退陣していく。
D2 更送抵抗型 自分が辞めることを納得せず、改革者への抵抗を周囲に煽りつつ退陣していく。
E1 上位関係型 たとえば本社人事部、経理部など、改革部門に対して牽制機能を有している上位組織や、社内取引の相手部署の人々。
E2 完全外野型 組織上の関係はないが、過去にその部署にいたことのある社員、社内の同期生や友人、取引先の社員など。

勝ち戦の循環

顧客ニーズは時代の変化とともに変わっていき、それに伴って競争のカギ(KSF、キーサクセスファクター)もシフトしていく。現在、われわれの事業は、顧客ニーズの何を満たすものなのだろうか?将来はどう変わるのだろうか?
誰が本当の競争相手なのだろうか?最近は業界の境が曖昧になっているから、思わぬところに潜在的競争相手が潜んでいるかもしれない。
そうして定義された市場の中で、われわれは常に成長分野に参入してきただろうか。
それも他社の後追いでなく、あえてリスクを背負い、常に先陣を切って参入してきただろうか。
そしてその市場で、勝ちを収めるまで執拗かつ集中的な勝負をかけてきただろうか。
そのためには優先度の低い事業から、経営資源を移動させることが必要だ。
成功企業はこうした攻めの戦略で成功し、その分野でのナンバーワンの地位を勝ち取る。そしてナンバーワン企業だけが手にすることのできるメリットを享受する。
しかし、長時間それに甘んじていると、やがて事業や商品は「陳腐化」して競争性を失いはじめる。あるいは業界そのものの地位が、経済の中で相対的にマイナーなものになっていく。
そこで、鼻の差でいいから常に先行する商品・事業開発が行われるように組織内の資源移動を図り、いつも次の成長分野に参入する努力が続けられなければならない。
以上の循環が回っている企業では、常に組織の緊張が保たれ、皆が目標を共有し、社員の力量が押し上げられていく。
逆に負けている企業は、この循環のどこかがうまくいっていない。

スモール・イズ・ビューティフルでは解決できない問題点

事業全体の「事業戦略」を明確に示せば解決できる問題点
個々の「商品戦略」を明確に示せばよくなる問題点
「人の評価」のシステムを変えれば解決できる問題点
「数値管理」つまり経理報告や原価計算などの手法をよくすれば解決できる問題点
「情報システム」を変えれば解決できる問題点
「教育・トレーニング」のプログラムを充実すれば解決できる問題点
各部署の固有問題として、それぞれの内部で解決改善に取り組むべき問題点

改革シナリオの仕掛け

1 経営陣が不退転の決意を固めていた。会社首脳の厳然たる姿勢が、タスクフォースの背中を押していた。
2 タスクフォースのメンバー選定が適正だった。
3 黒岩莞太はこのプレゼンを作りながら、社員の心理をどこまで追いつめればいいのか、そして越えてはならない線がどこにあるのかを必死に計算していた。
4 タスクフォースの分析は、何らかの経営コンセプトで裏づけられていた。つまり、「論理の権威付け」が工夫されていた。
5 圧倒的な量の「データによる事実の裏づけ」を行った。
6 反省論やシナリオ作りに現場のミドルが加わり、改革を「自分たちの問題」と受け止める雰囲気作りが行われた。
7 タスクフォースが言いにくいことは、黒岩莞太ないし外部コンサルタントの五十嵐が引き受けるという役割分担が行われていた。
8 聞く側にも相当の心の準備があった。

改革 9つのステップ

第1ステップ 期待のシナリオ
経営改革の場合には、この第1ステップで、改革のストーリーやスケジュール、あるいは改革後の「出来上がりの姿」が明確に示されていなければならない。この段階における障害(失敗や停滞の原因)は、期待のシナリオが曖昧なまま放置されることで起きる。それを私は期待のシナリオの「具体性不足」の壁と呼ぶ。
第2ステップ 成り行きのシナリオ
不振の事業組織では、「成り行きのシナリオ」どころか、その基礎になるべき「現状の問題点」さえ十分に議論されていないことが多い。何が問題なのかはっきりしないのだから、改革への動きも始まるはずがない。つまり組織として「現実直視」をきちんと行うことだけでも、かなりの努力を必要とするのである。第2ステップにおけるこの障害を私は「現実直視不足」の壁と呼んでいる。
第3ステップ 切迫感
不振企業では、危機感など感じていない人がたくさんいる。問題が深刻でも幹部や社員の認識が足りず、行動を起こそうとしないのだから、「改革9つのステップ」はここで停滞する。当然、事態はジワジワと深刻化への道を辿る。これを私は「危機感不足」の壁と呼ぶ。
第4ステップ 原因分析
それまで「社内常識」で語られてきた問題の原因が本当の原因とは限らない。むしろその逆のことが多い。つまり、関係者が考えてきた原因は表層的なもので、背後に真の原因が隠れていることが多い。しかしそれを見極めることは簡単ではない。それが「分析力不足」の壁である。
第5ステップ シナリオ作り
内容の劣ったシナリオは社員の「マインド・行動」にインパクトを与えることができない。それが「説得性不足」の壁である。その壁を乗り越えるためには、シンプルで強力なシナリオが提示されなければならない。
第6ステップ 決断
シナリオ作りと一連の決断は同じ作業の中で進められなければならない。ここに「決断力不足」の壁が隠れている。もし改革リーダーが本当に思い切った改革に「突っ込んでいく」つもりでいるなら、彼はリスクの高い選択肢を選び、次々と決断を重ねていかなければならない。しかし黒岩莞太ほどの経験や見識を持ち合わせていない人は、自分の「能力に見合った飛躍」の範囲でなければ大きな決断を下すことはできない。
第7ステップ 現場への落とし込み
具体的行動計画が部署別に作成され、改革の高価を測定する何らかの基準が示され、それに基づいて目標が設定される。改革シナリオに対して総論賛成だった人々が、この段階までくると各論で反対にまわったり、実行案の細部を曖昧にしたり、サボりを決め込むことがしばしば起きる。ここに改革の「具体化力不足」の壁がある。
第8ステップ 実行
見かけは大きな改革でも、実行面では短期勝負の局地戦を精力的に繰り返していくのである。こうした考え方は当初のシナリオに組み込まれていなければならない。日本企業の改革がなまくらになりやすい理由は、「突出部分」の設定と「一気呵成の勝負」というアプローチ(かなりの経営技量を求められるし、体力的にもしんどいやり方)から逃げたがるからである。このステップには「継続力不足」の壁がある。
第9ステップ 成果の認知
この第9ステップは、「次への元気」を生み出すためのものだ。そこに「達成感不足」の壁が待っている。米国のような金まみれのインセンティブ方式が、会社の長期の繁栄にとって有効だという証拠はない。しかしそれにしても日本企業では、リスクをとった者への報酬が不当に低いことが多すぎる。

成功の要因とステップ

1 改革コンセプトへのこだわり
2 存在価値のない事業を捨てる覚悟
3 戦略的思考と経営手法の創意工夫
4 実行者による計画づくり
5 実行フォローへの緻密な落とし込み
6 経営トップの後押し
7 時間軸の明示
8 オープンで分かりやすい説明
9 気骨の人事
10 しっかり叱る
11 ハンズオンによる実行